第17話

女が怒りで震え手を上げた瞬間、銃声が響き渡った。




覚悟はしていた。




相手が堅気ではないことは、容易に理解できたから。




だけど、いつまで経ってもくるはずの痛みがこない。




恐る恐る目を開けると、私を庇うようにして覆い被さる無名が視界に飛び込んできて凍り付いた。










「すみ‥ません‥。巻き‥込んで‥」


「どうして‥‥っ」


「早く‥逃げてください」






ポタポタと、血が滴り落ちる。



力尽きたように倒れた無名に、頭が真っ白になった。







「ーーあははははははっ!!分かったわ、あなたそいつと付き合ってるのね!?ごめんなさいね、私のお下がりで!!」






女の言葉になんて耳を貸す余裕はなかった。



崩れ落ちるようにして倒れた無名の体を受け止めて、必死にその名を呼ぶ。









「無名、無名っ!しっかりしてっ!」





血を止めようとハンカチを取り出すが、すぐに血で染まり役に立たない。







「ざまあみなさいっ!その娘を撃つつもりだったけど、丁度良かったわ。私から逃げた罰よ!精々苦痛を味わうといいわ!」





女は私と無名を引き離すと、凶器のような長さのヒールで腹を蹴り上げた。








「いいわ、その表情!覚悟しなさい!私をコケにしたのよ、絶対に楽には殺してやらないわ!」




痛みから蹲れば、女が狂ったように笑う。








「何をしているの、早く私の玩具を回収しなさい。壊れるまで可愛がってあげるんだから」




無名を連れて行かれてしまうというのに、痛みのあまり体が動かない。




それでも必死に手を伸ばそうとする私の手を、女が踏みつけた。







「そう焦らなくても、あなたはあなたで可愛がってあげるから安心しなさい。そうね、まずはどう痛めつけようかしら。私があのおもちゃで今までどうやって遊んできたか1から教えてあげましょうか?その体にね!」






‥‥ 狂っている、この女は。








「きっとアレへの感情なんて一気に冷めるわ。そして後悔すればいいのよ、アレなんかのために私を敵に回したことをねっ!」





踏みつけていた足を振り上げ、骨すらも砕こうと力を入れる。



無名に害をなしただけの自分の行いを恨みながら、その報いを受けようとした。

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