第14話

「まさか、それだけとか言わないよね?」





注文したパスタを食べていた私は、コーヒーを飲む無名を見て唖然とした。








「私は食べなくても平気です」






平気って‥‥。




今日はまだ一度も食事をしていなかったから、そんなわけがないのに。








「お腹、空かないの?」



「体質上、空腹を感じることはありません。何も口にしないまま数日を過ごすこともよくあります」



「‥‥だからそんなに痩せているのよ。それに、それは体質じゃなくて精神面な問題だと思う」



「どうして精神的な問題だと?」



「だって、あなた‥‥生に執着がないでしょ」






思わぬ言葉だったのか、目を瞬かせた無名。



そのまま何度か瞬きを繰り返すと、やがて小さく笑った。








「ーー確かに、そうかもしれません。基本的には若に命令された時にしか食べませんし、言われるまで忘れていることがよくあります」



「最後に食事を取ったのは?」



「記憶にありません」







平然と言い放つ無名に溜息を吐く。



この人、放っておいたら死ぬんじゃないの?



そんな不安が脳裏を過ぎる。











「食事を取ることに抵抗がないのなら、少しでいいから何か食べたほうがいい」





私も日頃は時雨に無理矢理食べさせられている身だ。



人のことを言えた義理じゃないのは分かっているが、それでも何か食べてくれないと気が済まない。







「分かりました。では、小夜さんと同じものを」




今になって、無名が私と似ていると言った意味が分かった気がする。






ーー同じだ。




時雨に所有されている身であることも、生に執着していないことも。




多分、私が無名を苦手としていたのも同族嫌悪だったのかもしれない。



こうして共に過ごすことで、それが杞憂だってことは分かったけど。










ーー無名は私と違って、純粋に感じるんだ。

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