第9話







「小夜」


「‥‥‥」


「おい、小夜」





揺さ振られるような感覚に目を覚ませば、お風呂上がりらしい時雨が怪訝そうな顔で私を覗き込んでいた。









「どうして泣いてる」







言われてから初めて気付く。



目元を拭えば、確かに濡れていた。








「‥‥分からない」


「あ?」





寝起き早々、ドスの聞いた声を出されて溜息を吐く。



‥‥面倒くさいな。



夢の中まで追求しないと気が済まないのか、こいつは。









「‥‥ねえ、寒い」


「だから何だよ」





誰かさんに脱がされた所為なんだけど、どうせ言っても無駄だろう。



まあいいか、ちょうど温かそうだし。










「‥‥おい」


「何」


「お前、気は確かか?」






湯気が出るほどに温まっていた時雨の体に触れると、今度は深刻そうな声を出されたが無視する。




‥‥ああ、やっぱり人の体温というのは心地よい。



時雨のことは大嫌いだけど、この温もりだけは別だ。




殆ど抱き着いているような体勢だが、疲労やら寝不足やらで頭がぼんやりとしているせいで、自分の行動を客観的に見ることができない。



ただ、その温もりが欲しくて欲しくて堪らなくて、手を伸ばしてしがみ付いた。











「‥‥忘れてしまえ、あの女のことなど」






背中に腕を回されて抱き寄せられる。




そのまま横抱きで膝の上に乗せられると毛布を掛けられた。













「ーー早く、俺だけのものになれ」





そんな時雨の呟きは、夢心地の私の耳には残らなかった。

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