幼馴染をイチャイチャで幸せにする話

しゆの

第1話

「今まで家事とかしてくれた俺に、奏撫かなでに何かしてあげたい」


 高校に入学して二度目のゴールデンウィーク、朝食後にリビングのソファーに座っている霧崎信弘きりさきのぶひろは、同い年の幼馴染である音原奏撫おとはらかなでにそう言った。


「お礼?」


 後片付けを終えた奏撫が艶のあるポニーテール調の長い黒髪を解きながら隣に座り、不思議そうな顔で信弘の方を向く。


 いきなり言われて疑問に思ったのだろう。


「うん。いつも家事してくれるしね」


 両親が長期出張で家を空けていて本来であれば信弘がやらないといけないところを、好意で奏撫がやってくれているのだ。


 一年くらい毎日のようにしてくれているし、そろそろお礼をしてあげてもいいっと思って言った。


 長期出張前もお弁当を作ってくれたししてくれたため、一年じゃ全然済まないのだが。


「うーん……」


 人差し指を顎辺りに当てて考えたような顔になる。


 お礼をしてあげたいと言われるなんて思ってもなかったようだ。


 学校一の美少女と言われるくらいに容姿が整っていて、どんなイケメンに告白されても全て断って家事をしてくれる奏撫には感謝している。


 枝毛なんか一切ないサラサラなストレートヘアー、長いまつ毛に包まれた茶色い大きな瞳、シミ一つ見られない綺麗な白い肌に見とれない男子はほとんどいないだろう。


 しかも高校生であれば友達とかと遊びたかったりするし、それなのに誘いを断って家事をしてくれるのだから感謝しない方がおかしい。


 ただ、モテ過ぎるが故に基本的に肌を隠すような服を着る。


 今も白いブラウスにロングスカートだから肌の露出がほとんどない。


 胸も同年代の女子と比べて大きいため、視線が嫌で隠すようだ。


「じゃあその……一つ思いついた、かな」


 どうやら思いついたようだが、何故か奏撫の頬が赤くなっている。


 少し恥ずかしいお願いなのかもしれない。


 叶えられる範囲であればお願いを聞くつもりだ。


「私とイチャイチャ、してほしい」

「……は?」


 思ってもいない言葉に聞こえたのに聞き返してしまった。


 てっきり買い物に行きたいからナンパ避けに付き合ってほしいと言われると思っていたため、意外過ぎる台詞に信弘の目が点になる。


「何でアニメのキャラみたいに目が点になってるの?」

「ラノベなら目が点になってるって地の文入るからその台詞はいらない」

「いや、そんなこと知らないからね。今の状況ならノブくんが主人公で私がヒロインだから。地の文は主人公視点が多いし」


 的確なツッコミな奏撫から入る。


 確かに可愛い幼馴染がいる主人公のラノベは結構あるが、特に自分が主人公とは思っていない。


「まあとにかく、この距離で聞こえなかったわけじゃないよね? 肝心なとこで難聴になる主人公じゃあるまいし」

「ラノベの話はいらないよ」

「最初にしたのノブくんだからね」

「ちなみにノブくんとはこの俺――霧崎信弘のことである」

「だからいらないから」


 アニメの話をしだしたのは奏撫の方からなのだが、今はそこに指摘を入れる必要はないだろう。


 このことで言い合っていたらキリがないからだ。


「まあ俺が主人公なわけないな。だって女の子か奏撫しかいない」

「いや、ラブコメだと主人公が高校二年生ってのが多いからこれからかもよ?」


 先輩と後輩を出しやすい二年生というのがラブコメ主人公の定番だ。


「でも、ノブくんの周りに女の子ばかりは私が困るから」

「何で?」


 どうやら奏撫は信弘の周りに女の子がいるのは不満なようだ。


「私とイチャイチャするから、だもん」


 そう言いながらシャツの袖を袖を掴んできた。


 とても真剣そうな瞳で見つめてきているため、本気でイチャイチャしたいのだろう。


 しかも独占欲を出してきている。


「いい、よね?」


 今度は自分の手を信弘の手に重ねてきた。


 とても温かくて細いのに柔らかな手だ。


「俺に出来ることだから大丈夫だよ」

「あ……」


 奏撫の肩に手を置いて自身に引き寄せる。


 いきなり引き寄せられて驚いたようだが、今の奏撫はとても嬉しそうな表情だ。


 他の人とこうやってくっつくのは恥ずかしさがあったかもしれなちものの、毎日のように一緒にいる幼馴染相手だから問題なかった。


 共にいる時間が長いというのが大きいのだろう。


「こんなにノブくんの温もりを感じるの久しぶり」


 えへへ、とイチャイチャ出来て嬉しそうに笑みを浮かべた。


 多少触れ合うことはあっても、ここまでくっついたのは小学生以来かもしれない。


 幼い頃は一緒にお風呂に入って身体を洗いっこまでした仲だったが、思春期になってからはだいぶ触れ合いは減った。


 いくら幼馴染とはいえど、思春期になれば触れ合う機会は減るだろう。


 とても可愛らしく、くっついているせいもあって奏撫にドキっとした。


 ラブコメ主人公は幼馴染相手だと慣れててあまりドキっと高鳴りを感じることは少ないが、現実だとそうでもないようだ。


 実際にくっついている奏撫に可愛いと思っているのだから。


「これからも家事頑張るから、いっぱいイチャイチャしたいな」

「いいよ。てかそもそもこんなのお礼に入らないよだって……俺は――奏撫が好きだから」


 ここまでされて奏撫の気持ちに気付いて告白をした。


 前から異性として好きなんじゃないかという気持ちはあったが、今日イチャイチャしてようやく自分の気持ちに気付くことが出来たのだ。


 長年一緒にいて好きになったからハッキリと気付けなかったのだろう。


「……え?」


 驚いたような表情で信弘を見た。


 お礼としてイチャイチャを要求してきたのだし、奏撫は信弘の気持ちに気付けなかったのだろう。


 自分でも今気付いたのだし、奏撫が分からなくても不思議ではない。


「本当? 本当の本当?」

「本当だよ。俺は奏撫が好き」


 自然と好きになっていったからいつ好きになったのかは分からないが、この気持ちに嘘はない。


 薄々でも自分の気付いていたから奏撫の要求にも応えた。


 好意がない相手とイチャイチャするようなチャラ男ではない。


「そういえばノブくんは私のことをサラッと独占してたよね。私が男子に誘われた時も『この日は俺と約束があるから駄目』って」


 女優やモデルみたいに容姿が整っているから奏撫は男子から誘われたりするため、奏撫が言うように男子との間に入って独占していた。


「それなのに今まで気付けなかったなんて……私はラブコメの主人公か? て違うわ。女の子だし」

「自分でボケツッコミするなよ。俺が告白したのに……それに女の子が主人公のラブコメもあるだろ」

「ごめんなさい」


 せっかくの告白なのに緊張感がないのは気の知れた相手だからこそなのだろう。


 だからってせっかくの告白は男だからちゃんとしたい。


 イチャイチャの要求で気付いた自分が言うのもなんだが。


「それで返事は?」


 答えは分かりきっているが、きちんと返事をもらわないといけない。


「うん。私もノブくんのことが好き、だよ。だから私と付き合ってください」


 思ってた通りの答えだった。


 好きになった理由が信弘と同じなのか違うのかまでは分からないが、きちんと奏撫の口から好きという言葉が出た。


「私が寂しい時にずっと一緒にいてくれたから好き。初恋で最後の恋。どうあったってノブくん以外の人を好きになるなんてありえないくらいに」


 ぎゅーと言わんばかりの力で抱きしめられ、信弘は過去のことを思い出す。


 昔の奏撫の両親は共働きな上にブラック企業勤めだったために、家にいる時間が少なかった。


 幼い女の子が家に一人というのは寂しいもので、家が隣同士だから奏撫は信弘と一緒にいることが多かったのだ。


 そのおかげで寂しい思いをあまりしなくて済んだのだろう。


 そして一緒に過ごしてる内に好きになったということだ。


「俺に出来ることは少ないけど、イチャイチャで奏撫を幸せにしたいな」


 家事なんて自信ないから何か作るというのは出来ないが、イチャイチャを望んだのだし、それで幸せには出来るだろう。


「うん。幸せにして?」


 何かを求めるなのように、奏撫は目を閉じた。


 この場合に望んでいることといえば一つしかない。


 ゆっくりと顔を近づけていき――


「んん……」


 唇同士が触れ合うキスをした。


 とても柔らかくて熱い唇で、何度でもキス出来てしまうくらいの魅力がある。


「生まれて初めてのキスだけど、こんなにも幸せになれるんだね」


 キスの余韻を楽しむかのように、奏撫はうっとりとした表情で自分の唇に指を這わした。


 その表情と仕草はとても妖艶で、思わず理性がふっとんでしまうくらいだ。


 毎日一緒にいるのに、何で今まで手を出さなかったのか? と自分の理性にツッコミをしてしまった。


「もっともっとイチャイチャで幸せにして?」

「うん」


 誘われた信弘はもっと密着して再びキスをした。


 ――ずっとずっと奏撫を幸せにしたいという想いを込めて――

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