第3話 性奴隷サキュバス

「いきなり何言ってんだお前……?」


 とんでもない宣言をいきなりかましたサキュバスに、俺は思わず白い目を向ける。

 俺の住むフォーリンガル王国では、奴隷制はとっくの昔に廃止されている。俺の生まれる前にはまだ制度として残っていたようだが、非人道的だという理由で奴隷の解放運動とやらがあったらしい。


 もっとも、その奴隷解放によって多くの元奴隷が行き場を失い、ホームレス化や犯罪集団に身をやつしたり、女性の多くは奴隷から娼婦になっただけ、ということもあったらしいが……とにかく『奴隷』という存在はこの国では認められてはいないのである。


「……言っとくが、俺は犯罪者になるつもりはないぞ? 奴隷なんぞ誰がいるか」

「なによぅ。サキュバスなんて性奴隷みたいなものって言ったのはお兄さんの方なのに……」

「それは言葉の綾ってやつでな……。言葉を額面通りに受け取るんじゃねぇよ」

「だったら誤解されるような言い方しなければいいのに」


 と、サキュバスはムッと唇を尖らせる。


「っていうかわたし、別に形はなんでもいいの。お兄さんの彼女になれないなら、とりあえずお兄さんの『都合のいい女』でまずは我慢するから傍にいさせて? みたいな」

「みたいな、ってお前、そんな軽々しく……」

「軽い気持ちでなんて言ってない! 本気の本気、ド本気だよ! ……あと、娼館にも正直ちょっと帰りづらいし」


 セリフの前半は拳をギュッと握って真剣に、後半はやや寂しげな口調で彼女はそう言う。

 それから、「あっ」と何かに気づいたような表情に彼女はなると、スッと俺に身体をすり寄せるみたいに寄せてきて、ズボンの上から手のひらで股間を撫でてきた。


 そしてニヤニヤと、八重歯を見せつけるかのような笑みを浮かべ、


「それとももしかして……あんなすごいエッチしておいて、お兄さんほんとは自信ないとかぁ? アハッ、ほんとは余裕のフリしていっぱいいっぱいのざこざこおにーさんだったりしてぇ?」


 などと、煽るように言ってきた。


 ……まったくもってイライラとさせる態度である。


「はぁ……仕方ねえなぁ」

「きゃんっ♡」


 俺はやや、乱暴な手つきで彼女を床に押し倒すと、上から顔を覗き込みながら告げた。


「お前がそれでいいなら勝手にしろよ。俺も勝手に使わせてもらうからな」

「……うん♡ 使って、使って♡ お兄さんのこともっと感じたぁい♡ あと……」

「あん?」

「わたしのことはぁ……サミーって呼んで♡」

「気が向いたらな」


 サミーと名乗った彼女の服をまくり上げながら、俺は適当に言葉を返した。


 彼女の名を呼ぶことは、きっと俺はないだろう。名前を呼んだら情が移る。

 でも……。


 ――娼館にも正直ちょっと帰りづらいし。


 そう言った瞬間の、彼女の少し寂し気な表情だけは、なんだかチクリと胸に刺さった。

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