第2話 ガチ恋サキュバス

 サキュバスからいきなり好きとか言われて、俺の目が点になる。


 サキュバスは人間の男とまぐわうが、いわゆる恋愛関係を結ぶことはめったにない。

 一人の男から搾精するよりも、より多くの男とまぐわう方が、より効率的に多くの精気を得ることができるためだ。


 故に彼女たちにとって、人間のオスは餌同然。特定の誰かに入れ込むことはほとんどあり得ないというのが常識である、のだが……。


「わたしぃ……お兄さんのこと、マジで好きんなっちゃったかも」

「……ああん?」


 目の前のサキュバスはあろうことか、あからさまに照れた様子で、そんな戯けたことを言ってくる。

 一瞬聞き間違えかとも思ったが、テレテレもじもじと身体をくねらせながらも上目遣いで見上げてくる彼女の様子を見るに、どうやら幻聴の類でもないようであった。


 ……うーん、これは。


「なるほど。安定した搾精を行うために、俺に色仕掛けを仕掛けているというわけか。殊勝な態度で俺を騙くらかそうという魂胆だな?」

「違うよ!?」


 俺の解釈にサキュバスがガンッ、と目を点にする。

 それからなおいっそう、上目遣いで目を潤ませて、俺に訴えかけてきた。


「わ、わたし、本当にお兄さんのこと好きになっちゃったんだもんっ。好き好き大好き超愛してるの! お、お兄さんにもし彼女がいないなら、わたしが彼女になってあげてもいいケド、みたいな……えへへ……」

「あーガチ恋営業ってやつな。それで何人も男囲ってる淫魔サキュバスに騙されて金も精気も大量に貢いだやつ俺知ってるぞ」

「わたしは違うよ!? いや確かにいるけど! そういう淫魔ヒトけっこういるけど!」

「そもそもお前らサキュバスにとって、人間なんて餌同然だろう? 同じように、人間の男にとってはお前らサキュバスなんて都合のいい性奴隷オナホがいいところだ。本気で入れ込んで付き合おうって思ったりするほうがどうかしてる」

「わたしこんなにお兄さんのこと好きなのに!?」

「その言葉をどうやって信じてやればいいんだ?」

「そ、それは……だって、さっきまであんな濃厚なえっちを……」

「身体を重ねただけで愛が生まれたりするわけないだろう……」


 特にお前らサキュバスという種族は。


 あきれ果てる俺に、サキュバスがぐっと両の拳を握って訴えかけてくる。


「ほ、本当に好きんなっちゃったの! だってわたし、元々娼館にいたんだけど――」

「あーいいからいいから。ちょっと重めの身の上話を打ち明ける流れとか別にいいから。そういうのされると同情しちゃってちょっと情が湧いちゃうだろ」

「冷たい感じで意外とお人好しだ!?」


 彼女の話を慌てて遮ると、サキュバスがそんな突っ込みを入れてきた。

 それから、「はぁ」と彼女はため息をつくと。


「……分かった。すっごいお兄さんのこと好きんなっちゃったけど、信じてもらうのは諦める。――その代わり」

「うん?」


 サキュバスはびしっと俺を指さすと、こんなことを宣言した。


「わたし、今からお兄さんの性奴隷に立候補するわ!」

「ファッ!?」

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