稲守任三郎と近代日本にダンジョンが出る的な話

第1話 プロローグ

「報告は千葉県館山市鋸山ダンジョン、２１階層の調査で間違いありませんか？」

「はい、間違いありません」

ここは幕張にあるビルの一室、スーツを着た１人の女性と、軍服を着た男女2名、そして稲守任三郎の計４名が、机を挟んで向かい合っていた。

机にはダンジョン内で採掘した鉱石やモンスターの素材が置かれている。

「稲守様が提出したこの鉱石について、21階層で採掘と記載されていますが、埋蔵量は把握されていますか？」

「はい、報告書に記載しておりますが、今回提出した鉱石と同等の物が21階層全域に見られます。添付されているダンジョンマップがその範囲となります」

「こちらですね、少々お待ちください」

女性と軍服を着た男女がダンジョンマップの確認を始める。

指を刺したりこちらの道はどうとか、出現した魔物に対してどの程度の武器が必要かを話し合っていると、軍服を着た女性の方が声をかけてくる。

「稲森様、ここに記載されている、ゴーレムグリフォンとはどのようなモンスターなのですか？」

「体長は尾を含め８ｍ程、体高は翼を除いて３ｍ程で、姿形は１０階層の峡谷エリアに出現する通常のグリフォン種に酷似しておりますが、翼含め身体が全て岩石や鉱物で形成されており、分類的にはゴーレムに近いと思われます。魔法は火、土、風を無効、水のみが有効でした」

「火、土、風が無効・・・厄介ですね。他には特徴はありますか？」

「はい。グリフォン種が風魔法による攻撃をするのに対し、ゴーレムグリフォンは身体強化魔法を常用し、巨体を生かした突進や、土属性魔法を多様していきます。飛行はしませんが、自らの足元に土槍を出し自らを打ち上げ跳躍、急降下して攻撃をしてきます」

その後は、20階層、21階層の安全地帯の情報や、報告書に記載されている情報の確認作業を1時間程行って会議が終了した。

「それでは稲守様、今回の報酬についてですが、新階層の情報、安全地帯、新モンスター、鉱石の情報を踏まえて、二百二十万円の報酬となりますがよろしいですか？」

「はい、異論はありません」

「これにて、本日の報告会議を終了とさせていただきます。稲守様のご活躍を今後も期待しております」

「ありがとうございます。それでは失礼させていただきます」

俺はお辞儀し、部屋から出てロビーへと歩く。

ロビーにある喫煙所に入り、バッグのポケットからタバコを取り出し、火をつける。

「はー・・・疲れた・・・。」

併設されている自販機でコーヒーを買い、ベンチに座る。

「誰もいないからって独り言を言うおっさん、しかもコーヒー片手にタバコと来たもんだ・・・」

今の自分を客観的に見るが、とてもいい大人には見えない。

ピロロン。

胸ポケットに入れてあるスマートフォンから通知音が聞こえてくる。

スリープモードを解除し通知を見ると、チャットアプリからメッセージが届いた通知だった。

『口座への振込のお知らせ』

「金がいくらあってもなぁ・・・そろそろ長期休暇とか取れないもんか・・・」

ダンジョン調査員に任命されてからというもの、機密事項の多さや、行動範囲の制限、調査義務によって、休みも取らず訓練とダンジョン調査の毎日だ。

「そうだ、そういえば5年超えると有給が取れるって話だったはずだ」

ダンジョン調査員専用のアプリにある、契約者規約を開く。

「えーっと・・・あった、優良調査員の特別休暇制度」

優良調査員とは、5年以上の任期、週3回以上のダンジョン調査、月に5回以上の高額報酬調査成果の条件で、半年に一度、2週間ほどの休暇や、ショッピング等で使える優待券がもらえたり、保養所の無料宿泊チケットが配布される優遇制度だ。

「あれ？俺これ達成してね？」

善は急げとばかりにタバコを消し、優良調査員申請書を作成するため、このダンジョン庁舎から走り出すのであった。

規約に書かれている新任指導義務の項目を見るのを忘れたまま。