第11話
12月10日 火曜日 20時 rose 事務所
「藤井、あとは任せた……って本当後輩一人に片付け押しつけて帰る先輩居る? 普通いないよね?」
制服から私服に着替え、タイムカードを切る為に、リュックサックを左肩に背負って事務所にやってきた藤井弘樹は、自分に残りの片付けを押し付け、先に帰った兼城薪の文句を言いながら、社長である樹怜のデスクの横に置かれているタイムカード入れから自分の名前が書かれたタイムカードを取り出し、タイムレコーダーに自分のタイムカードを通した。
そして、画面に表示された退出時刻を社長のデスクに置かれている毎日の入退出の時間を記入する紙の自分の名前の所にその時刻を記入したい。
「……全く、急用かなんか知らないけど、片付けぐらい最後までやっていけよ! あのバカ先輩!」
本人が居ないことをいいことに、兼城薪の悪口をここぞとばかりに……
「あのバカ先輩は、いつだってそう、店長には笑顔で媚びを売る癖に、俺や如月には、いつも威圧的な態度で命令してくるし、面倒くさいことがあると……」
「……あぁごめん。またあとでくるねぇ?」
事務所兼休憩室のドアが開き、カーキのニットにジーパン。首元には紺色のマフラー。足元には黒のスニーカー、頭に黒のベレー帽を被ったが七橋來未が「お疲れ様です」と言いながら部屋の中に入ってこようとしたが、藤井の行為に気づき、踏み出し掛けていた足を戻し、そっとドアを閉めた。。
「七橋先輩! 待って下さい! 今のは誤解なんです」
藤井は、リュックサックを両肩に背負い直して、事務所兼休憩室を飛び出し、七橋を追い掛ける。
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