第2話

「あぁぁぁ……眠い。昨日も昨日で遅番だったからなぁって……あぁダメダメ総一郎さんは、わたしなんかよりもっと大変なんだから!」

 來未は、眠気を覚ます為に首を横に振る。

 七橋來未は、カフェroseで接客担当として働いている。

 普段も、そこそこ客はいるが、12月のクリスマスの時期はいつも以上に客が多い。

 そのせいでここ1週間、ほぼ休みなしで働いている。

 勿論、半休勤務も2日ほどあったがほぼ一週間出勤し続けている。

 なので、來未の体はボロボロだ。

 それでも、総一郎さんへの弁当作りと朝食作りを止めようとは思わなかった。

 理由は、私が総一郎さんに自分の手料理を食べて欲しいから。

 総一郎さんの仕事は弁護士で、仕事の依頼が入ると依頼が解決するまで何日も家に帰ってこない。

 あと、もう一つ理由は、彼の方が私の何倍も料理が上手い。悔しいけど、総一郎さんの作る料理は本当に美味しい。

 だからこそ、彼が家に居る時ぐらいはお弁当と朝食ぐらいは私が作りたいと、彼にお願いして作らせて貰っている。

「でもやっぱり……あぁ!」

 來未は、一瞬フライパンから視線をそらしてしまった。

「あぁやっちゃった。まぁ? 卵焼き、それも端っこ大丈夫! なんとかなる!」

 少し卵焼きを焦がしてしまった。ウィンナーの方はどうにか大丈夫だった。

 だけど、これを自分ならともかく、総一郎さんは、食べさせられない。 

 しょうがない。総一郎さんの分は作り直そう。

 そう心に決めた來未は、自分用の桜色の弁当箱に卵焼きとミニウィンナー3本を端で掴み、それぞれ弁当の中に入れると、冷蔵庫の中から卵を2個取り出し総一郎さん用の卵焼きを改めて作り始めた。

 3分後。

「よし! 完成。ふぅ! 今度はなんとか綺麗にできた。あとは、これを……」

 作り直した卵焼きを卵焼きから下ろし、弁当箱に入れようとしたら……キッチン兼リビングの扉が開き、ルームウェア(黒と白)姿の総一郎さんが、中に入ってきた。

「おはよう総一郎さん! 朝食いつも通りテーブルの上に置いてあるから」

 総一郎に気づいた來未は、手を止めて彼におはようと声を掛ける。

「あぁ!」

 総一郎さんも、來未の挨拶に、一言「あぁ」と返事を返すだけで、そのまま來未の作った朝食を食べる為に、キッチンの椅子に腰かける。

 そして、何も言わずに來未が作った卵サンドを無言で食べ始めた。

 だけど、今日は、いつもと違った。

 いつも通り、無言で朝食で食べていた総一郎さんが急に……

「お前、どういうつもりだ!」

「えっ?」

 お弁当の最終確認をしていた來未は、総一郎の言葉慌てて後ろを振り向く。

「どっどしたの?」

「來未! お前は俺の事をなんだと思ってるんだ! 殺すつもりか?」

「殺す! そんな事考えてないよ!」

「だったら、なんで? こんなまずい飯……いやぁもういい! お前とは今日限りで終わりだ!」

「なんで! 理由を教えて!」

 いきなりの別れて宣言に來未は戸惑う。

 だけど、彼の意志は強く、わたしの言葉を訊いてはくれない。

 でも……

「総一郎さん! 私が貴方を困らせてたら謝ります。でも、突然別れるなんて……」

「來未、お前とはただの遊びだ! お前とつき合ったのは、お前が持つお金だよ! お金がなかったたら、お前みたいな我儘女とつき合ったりしねぇよ! それに、お前には言ってなかったけど、俺、来月、結婚するから。だから、お前がいつもまでも恋人面でいられると迷惑なんだよ!」

「……」

 総一郎からの衝撃な言葉に來未は、言葉を失う。

(私が遊び?)

 しかしすぐさま涙が流れてきた。

 來未は左の薬指から婚約指輪を外しと部屋の隅に投げ投げた。

「そう……いやぁ……古橋さん?」

「なんだ!」

 私の呼びかけに、総一郎さんはいやいやながらに振り返る。

「私……出て行くねぇ? あぁそうだ! よかったらお弁当食べて下さい。作り過ぎたんで! あぁでも、もういらないよねぇ? 婚約者でも恋人でもない。ただの遊び人が作ったお弁当なんて」

 來未は、頭を下げながらキッチン兼リビングから出て行った。

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