第24話

「美緒これはいったい?」

 渚は、自分の目の前で行われている寸劇にパニックになると同時に、どうして彼らがここに居るのか理解できずにいた。

だって俺は、彼に会ってはいけない。

「…ごめんなさい。私が、西條さんに頼んで皆にきて貰ったの」

美緒が申し訳けなさそうに頭を下げる。

「西條に! なんでいま西條の名前がが出てくるんだよ!」

 確かに、西條には美緒の事を守って欲しいにお願いした。

 だけど、それ以上になんで、美緒と西條が繋がっているんだ。

「まさか…あの日の手紙」

 渚は、自分がまだ刑務所に居た11月に、美緒から届いた手紙の事を想い出す。

 あの時は、美緒からの手紙が嬉しくて、何も不思議に思わなかった。

 でも、いま考えると、どうしてあのタイミングに美緒から手紙が送られてきたのか? 

 美緒は、あの日まで、ずっと自分あてに手紙を送ってきた事はなかった。

 そもそも、自分がどこの刑務所に入っているか知らないはず。

 5年前、刑務所に入ってすぐに美緒宛に送った手紙にも決して住所は書かなかった。彼女に迷惑を掛けたくなかったから。

 だけど、あの日(11月)に送られてきた手紙には、はっきり住所が書かれていた。

 まさか…西條が裏切った?

「…西條さんは、お前の事一度だって裏切ってないぞ!」

「!?」 

 能力を解除した昴が、渚の前に姿を現す。

「…昴…」

 突然現れた昴の名前を驚きながらも呼ぶ。

「渚! 西條さんが、裏切らないことは、お前が一番よく知ってるだろう? そうじゃあなかったら、赤の他人に、お前も最愛の女性の警護なんて頼まないだろう?」 

「…」

 どうして、昴までその事を知っている?

 やっぱりあいつは、俺を裏切った?

 すると…隣のキッチンからレモンの刺繍が施された黒いエプロン姿の西條侑李が右手にヘラを持ったままリビングに飛び込んできた。

「泉石! 美緒さんは悪くない! 悪いのは全部俺なんだ!」

「…西條!」

「侑李さん!? なんでいま出てくるんですか!」

 美緒は、西條に自分に渚の出所の事を教えてくれなかった罰として、今日の料理の全てを頼んだ。

 だからこそ、今ここで彼が出てきてしまうと、今日の計画が全て台無しになる。

「美緒さん! 今は、貴方への誤解を解く方が大事です」

「でも…」

 確かに、渚君からの誤解を解きたい…でも…それ以上に…計画を台無しにしたくない。

「貴女はそれでいいですか! 泉石に疑われたままで。貴女はそれで本当にいいですか!」

 手に持っていたヘラを空中に投げ飛ばしながら、美緒の両肩を掴む。

 そして、侑李が飛ばしたヘラは、堂城誠也がしっかり受け止めた。

「…いや。でも渚君に…」

 西條に両肩を掴まれた瞬間…美緒の目から涙が出てきた。

「…美緒さん。もう大丈夫です」

「西條さん?」

 侑李がそっと美緒の涙を拭う。

「美緒さん。あとは自分に任せてくれませんか?」

「…うん」

 美緒は、小さく頷く。

 それを確認した侑李は、泉石の方を向きなおし、彼に問いかける。

「泉石」

「何だよ!」

 自分の目の前で、妻の裏切りとも言える行為を見せつけられた渚は、侑李の呼びかけに怒り声で返事を返す。

「泉石、確かに俺は、お前から彼女の警護を頼まれた。でも、俺のミスで彼女にその事がばれてしまった。だから俺は、彼女にお前との約束、いやぁ秘密をを打ち明けた。それを訊いた美緒さんは泣いたんだよ? 渚君の馬鹿やろうって! なんでそんな大事な事、自分に教えてくれないのって。泉石…お前は、人を守る方法を間違ってる! 今のお前のままじゃあ誰も守れないって!」 

 西條は、黙り込んでしまった渚の頬を思いっきり殴る。

「…西條。なにするんだよ!」

「お前! まだ解らないのか! 美緒さんは話して欲しかったんだよ! 全部隠さず! ありのままの真実を」

 今更そんな事を言われても遅いよ。

 俺は、彼女を裏切ってしまった。

 そんな俺が、今更何を話せばいい?

「…だったら今から話せばいい? お前の今の気持ちを! ここに居る全員に向かって?」

 西條の言葉にリビングに居た全員が渚の方を一斉に振り向く。

 その中には、勿論美緒も含まれている。

「…俺は…」

 俺は…美緒…君に許されたい。

 そして、この罪を終わらせたい。

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