第78話

ファミリーレストラン「アップルジャスミン」

「じゃあ? 樹利亜さんは、本当に堂城先輩の?」

 衝撃するカミングアウト(妻)に驚きながらも、なんとか正気を取り戻した黒木。

「すみません。こんなだまし討ちのような形を取ってしまって」

 樹利亜は、黒木の質問に申しわなさげに頭に下げる。

「ここここちらこそ。あの? 樹利亜さんは、澤井先輩とお知り合いなんですか?」

 そもそも、黒木がここにきたのは、今日の朝、突然掛かってきた澤井から、仕事終わりにちょっと会えないかなって誘いを受けたからだ。

 けど、仕事を終え、澤井先輩と約束したファミリーレストラン「アップルジャスミン」に来てみると、そこにいたのは、澤井本人ではなく……堂城先輩の奥さんだった。

「昔、雑誌の取材で」

「えっ! 樹利亜さんも出版社で働いているんですか? どこの出版社ですか?」

 樹利亜の口から飛び出した「雑誌」と言う単語に黒木が飛びついた。

「えっ? あぁ……菜々(なな)」

※毎日の食卓に可愛いをコンセプトにした「sweet table」

 この雑誌は、毎日の美味しい食卓に、季節の花を飾ろうをコンセプトにした、グルメとお花を同時に紹介するグルメ雑誌であると同時に、園芸雑誌でもある。

「……菜々?」

 名前を呟くながら首を小さく傾ける。

 そんな黒木の様子に、樹利亜は、堪らず、壁際に置かれていたタブレットを手に取り、テーブルの真ん中に置き、別の話題に切り掛ける。

「そそそそう言えば、うちの旦那? 黒木さん達、晴海の皆さんに迷惑掛けてませんか? あの人? 昔から仕事が忙しくなると多少……いやぁ? 凄くご迷惑を掛けるので、黒木さん達にもご迷惑かけてないかほんと……」

「堂城先輩を悪者(ばか)にしないで下さい!」

「くくく黒木さん?」

 突然の出来事に、樹利亜は理由が解らず黒木の方を見る。

 そんな樹利亜に、黒木は想いの盾をぶっける。

「樹利亜さん! 私の親友は、8年間ずっと堂城先輩に恋心を抱いていました。だけど、その想いを一度ですら、堂城先輩に直接伝えることはありません。私は親友に好きなら伝えた方がいいよって何度も言いました。けど、親友は、かたくだに想いを伝えようとはしませんでした。何故だと思いますか?」

「……」

 黒木の投げかけに答えることができない。

 いやぁ? 答える資格がいまの樹利亜にはない。

「それは、堂城樹利亜さん。貴女が居たからです。どんなに親友が、堂城先輩のことを想っても先輩の中には、常に樹利亜さん。貴女がいた。そんな男性に、想いを告白しても、ただ、自分が苦しいだけ。それでも親友は、この8年間ずっと堂城先輩のことを愛し続けたんです。先輩が好きだったから」 

 一方的に、小泉璃菜の堂城想い、いやぁ? もしかしたら自分の想い? を樹利亜にぶつけると食事代(2千円)をテーブルに置き、テーブルをあとにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る