第70話

同時刻 雫丘出版 黒蝶編集部

「っもも百瀬?」

 パソコンの電源を落とし、カバンを持ち、まだ仕事が終わっていない同僚(百瀬なる)の元に行き、彼のパソコンを覗き込む。

 急にパソコンを覗き込んできた百花に、百瀬は、作業を一旦やめ、百花の方を見る。

「なんだよ! 俺、いま、忙しいだけど? この資料を今日中に纏めないといけないんだけど」 

 百瀬はいま、俳優Tの薬物疑惑を担当している。 

 百瀬が、担当している俳優Tは、以前から薬物使用の疑惑があり、他の出版社も彼の薬物疑惑を調べている。

 なので、百瀬は、他の出版社が調べていない情報を見つけようと、ここ最近は、彼の周辺を探っている。

「ふぅん。相変わらず大変そうだねぇ? 薬物関係は? 私も、3年前に、音無君と一緒に担当したけど」

 3年前、百花は、元後輩の音無悠と一緒に政治家の今村敦の薬物事件(2年の実刑、3年の執行猶予)を担当した。

「お前のは、後ろに反社がいただろう! それどころか……はぁ?」

「なに? 話の途中で、急に黙り込まないでよ!」

「いやぁ? 今更だけど、お前、よくあの程度の怪我だけで済んだよなぁ? 副編集長がもしもの時に備えて、知り合いの警備会社に警護を頼んでたみたいだけど」

 副編集長である水川は、人脈が広いのか、年齢を問わず沢山の友達がいる。

 だからこそ、3年前も、その人脈を使い、私達の事を護ってくれていた。

 けどまぁ? 最終的に百花を危機から救ったのか、当時はまだ刑事だった榎本琢馬だ。

「まぁあの時は、偶々運が良かっただけよ! 私、こう見えて悪運だけは強いから! それにほら? 私、死神先輩の直属のもと後輩だから悪運をすら寄せ付けないのかも」

 笑いながら、堂城の事を口にする百花。

「……」 

 そんな百花の姿に、言葉が詰まる百瀬。 

「もう! なに黙り込んでるの! 私が滑ったみたいになってるじゃん」

 百瀬の背中をバンと強く叩く。

「なにすんだよ!」

「百瀬が、私に変なこと言わせるからでしょ! じゃあ? 私、先に帰るから! 戸締りよろしく!」

「おい! いち……」

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