第69話

20時 雫丘出版近くのファミリーレストラン「アップルジャスミン」

「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」

 店員の女性が店に入ってきた黒木に、「何名様ですか?」 と尋ねてきた。

「待ち合わせです」

 黒木は、店員に得意技の営業スマイルで「待ち合わせです」と答えると店内にいるはずの澤井の姿を捜す。

 すると、窓側の一番奥の席に、長髪の女性が一人こちらに背を向ける形で座っていた。

 黒木は、その長髪の女性に向かって、

「澤井せ……誰ですか?」

 そこにいたのは、澤井ほたるではなく、ストラップの襟付きシャツに、ブラウンのワイドパンツ、足元には黒のヒール合わせた30代前半の女性だった。

「黒木胡桃さんですよね?」

 女性……堂城樹利亜は、椅子から立ち上がり、黒木に向かって頭を頭を下げる。

「初めまして、堂城樹利亜と申します」

「……堂城」

 その言葉に、黒木の中で、なにかが壊れた。

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