第67話

拝啓 澤井ほたる様

 澤井様。突然のこのようなお手紙を差し上げて申し訳ありません。

 わたくしは、堂城誠也の妻で、堂城樹利亜と申します。

 ですが、仕事先などでは、堂城樹利亜ではなく、旧姓の南浜樹利亜を名乗っています。

 本来なら、仕事先では、旧姓ではなく堂城樹利亜の姓を名乗りたいです。

 しかし、私達、夫婦は、普通の夫婦ではありません。

 私達は、元々大学を卒業したら、結婚するはずでした。

 ですか、卒業を目前に控えたあの日、私は、旦那の友人で元夫に、知らない間に婚姻届けを出され、一方的に妻にされてしまったんです。

 私は、すぐさま、市役所に婚姻無効を訴えました。ですが、私の訴えは、訊いてすら貰えず、私は、恋人だった誠也さんから引き離されただけではなく、誠也さんとの幸せな未来すら奪われてしまったんです。

 元夫の誠也さんに対する一方的な感情のせいで。

 私は……なにもかも奪われてしまったんです。

 そんな元夫との仮面生活を7年続け、私は、ようやく誠也さんに略奪して貰えたんです。

 だから、私達は、普通の恋愛結婚とは違い略奪夫婦なんです。

 澤井様。

 突然このような手紙を差し上げってだけではなく、突然、このような貴女様には全く関係のないカミングアウトまでしてしまい、本当に申し訳ありません。

 ですが、澤井様。

 貴女様には、どうしても、私達、いやぁ? 私の秘密を知って欲しかったのです。

 私は、愛する人と一度、離れてしまいました。

 それでも、7年と言う時間は掛かりましたが、今、誠也さんと結婚し、同じ「堂城」姓を名乗ることができています。

 それでも、いまでも時々考えてしまうんです。

 本当に、あの選択で間違えってなかったのか? 

 もしかしたら、別の選択があったんじゃあないかって?

 だから、澤井様。

 貴女には、私みたいに後悔をして欲しくないんです。

 澤井さん……今でも好きなんですよね? 誠也のこと?

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