第38話

医務室(1階)

「もし、痛みが出るようなら、すぐに病院に行って治療してもらうこと!」

 医師の里中巴月さとなかはづき(40)は、百花に火傷の薬を塗りながら、強い口調で言い聞かせる。

「解りました」

 百花は、里中の言葉に頷ながら、感謝の言葉を告げる。

「それにしても、熱々のコーヒーを盛大にぶちまけるなんて、市宮さんって案外おっちょこちょいなんだねぇ? それに、黒蝶の人だからもっと近寄りがたい人なのかって思ってたけど……じ」

 突然百花の右手を掴む。

「……怪我人に、なにしてるんですか?」

 医務室の扉が開き、コンビニの袋を持った堂城誠也が部屋の中に入ってきた。

「堂城先輩!」

「誤解だ! 堂城晴海副編集長! 私は、ただ、市宮さんの怪我の具合を見ていただけだ」

 里中は、掴んでいた百花の右手を自分は無実だと言わんばかりに離す。

 しかし、堂城は、そんな里中の無実をすぐさま、有罪に変える。

「そうですか? だどしたらおかしいですねぇ? 自分も彼女が火傷を負った現場に同席してましたけど、彼女が、火傷を負ったのは、右手ではなく、左手ですよ? なぁ? 市宮?」

「あぁはい! 私が火傷を負ったのは、右手ではなく左手です」

 堂城の問いかけに、百花も、はっきり「左手」と返事を返した。

「あぁそうだった! そうだった! ごめん。左手だったねぇ!」

 自分が勘違いしていたと、自分の頭を軽く「コン」と叩き、薬棚からさっき塗ったばっかりの塗り薬を取り出し、百花の左手に塗った。

 そして、もう一度、

「これは、あくまでも応急処置だから、痛くなったらすぐに病院で見て貰うこと?」

 とさっきと言葉を少し変え、百花に2回治療を施した。

「あぁありがとうございます。じゃあ、堂城先輩も迎いに来てくれたので、失礼します」

 百花は、里中に頭を下げると、堂城の腕を掴み、医務室をあとにする。

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