第30話
「でも、まさか、若瀬先生がこんなイケメン方だとは思いませんでした!」
堂城誠也との電話を終え、テーブルに戻ってきた小泉璃菜は、いつの間にかやってきていた若瀬怜音こと鳴海坂昴姿に興奮する。
「あぁははイケメンですか? そんなことはじめて言われましたよ」
「えっ! 本当ですか? もしここに胡桃……あぁ」
「どうかされましたか?」
急に言葉を切り上げた小泉に、昴が心配そうに声を声をかける、
「いえ? 今日、本当は、ここには私じゃあなくて、黒木胡桃と言う、女性編集者が来るはずだったんです」
「あぁ! 自分に、なんでも取材の電話を掛けて下った方ですよね?」
「はい! 胡桃は、若瀬先生の大ファンで、今日の単独取材も前から凄く楽しみしてたんですけど、この頃、仕事が忙しかったので、風邪を引いてしまったみたいで昨日から会社を欠勤してるんです」
本当は、違う。
けど、その事を取材対象者に言う必要はない。
「解ります。僕も花屋と作家の二刀流なので、普通の人より、二倍の体力と気力を消費するので。あぁ! そうだ!」
昴は、カバンの中から一冊の本を取り出すと、その本を小泉に手渡す。
「黒木さんのお見舞いによかったらどうぞ」
「ありがとうございます」
昴から手渡された本を受け取る小泉。
「えっ?」
昴から、受け取った本には、小さく若瀬怜音の名前が一番書かれてあるだけで、タイトルが書かれていなかった。
「あの……わか」
「小泉さんは、葉牡丹の花言葉を知っていますか?」
「えっ? あぁえっと……葉牡丹の花ことですよね? えっと……渋谷ちゃん判る?」
隣に座る渋谷に助けを求める。
「えっ? えっと……葉牡丹ですよね? えっと……すみません! 解らないんです」
一瞬、考える素振りを見せたがすぐに降参する。
「若瀬先生すみません。答えを教えて貰ってもいいですか?」
「葉牡丹の花言葉は、祝福:愛を包む:物事に動じない:利益です。小泉さん。いま、あなた渡したその本には、最初からタイトルはありません。けど、も、タイトルを付けるとしたら、きみがここに戻ってくるその日まで、でしょか?」
「……きみがここに戻ってくるその日まで? なんか詩みたいなタイトルですねぇ?」
「そうですか? 私には、普通のタイトルだと思いますけど? 小泉先輩って、やっぱり乙女なんですね?」
「わわわたしが、おとととと乙女そそそそな訳ないでしょ! 先輩をからかわないの!」
「ふふふふふっ」
「!」
突然、笑い出した昴に、言い争いをしていた黒木と渋谷は、同時に昴の顔を見る。
一方の昴も、そんな二人の視線に気がついたのか、笑い涙をハンカチで拭きながら、
「すすすみません。お二人は、本当に仲がよろしいですよね?」
「仲が良い? 私達ですか?」
「えぇ! まるで本当の姉妹のように。自分は、一人っ子なので、年の離れた兄や姉がいたらこんな感じなのかなって?」
「若瀬先生って! 一人っ子なんですか? なんか意外です」
「そうですか? まぁ? 手のかかる弟みたいな幼馴染兼親友が一人いるんで、実際は一人っ子なんですけど、そいつのお陰で寂しくは……」
本当は、5歳離れた妹がいる。
けど、4年前の渚の逮捕=自分と灯の結婚式を最後に、妹どころか家族とは会っていない。
それどころか、灯とも……
「若瀬先生?」
「あぁ! すみません。自分の近くのせいで取材時間も押してしまっているので、そろそろ取材を始めませんか?」
現在の時刻……13時45分。
本来の取材開始時間から45分も遅れている。
「そそそうですね? では、取材を開始させて頂きます。では、まず名前をお願いします」
「はい! 若瀬怜音です。今日は、よろしくお願いします」
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