第21話

「あれ? 晴海編集部って、璃菜が、今インターンしている黒蝶と同じ、6階だったっけ?」

 エレベーターの前にやってきた黒木は、晴海編集部が璃菜が居る黒蝶と同じ6階か? それとも違う階だったか思い出していた。

「晴海編集部は4階だ!」

 黒木は、後ろから突然聴こえてきた声に、後ろを振り返る、眼鏡を掛けた黒スーツの男性が立っていた。

「……あの?」

「なんだ!」

「あぁぁ! なんでもありません ああああの! ありがとうございました」 

 黒木は、男性にお礼を告げ、床に置いていた段ボールを手に取り、エレベーターに乗ろうとしたら、

「おい!」

 黒スーツの男性が自分に声を掛けてきた。

 その呼びかけに、エレベーターに乗ろうとしていた黒木は、段ボールを両手で持ったまま振り返る。

「あの? なにか?」

「それ? お前独りで、晴海まで持って行くのか?」

 スーツの男は、黒木が持っている段ボールを指差しながら、自分にそう問いかけてきた。

 段ボールの中身には、三野宮編集長が、晴海の棗編集長から借りた物が入っている。

 なにが入ってるかは、知らないけど。

「そのつもりですけど? あの? 私に、まだなにか?」

 場所を教えてくれた事には、勿論感謝はしているが、もうこのスーツの男性に、黒木は用はない。

 だか、スーツの男性は、黒木に用事があるらしく、さらに話し掛けてくる。

「お前、インターン生だよねぁ?」

「えっ? あぁはい。半月前から、ここみで、インターンをやっています。あの?」

 自分と璃菜がインターンをしていることは、雫丘出版の上層部。

 そして、私達が、それぞれ、お世話になっている「ここみ」と「黒蝶」、あと私、本来インターンをするはずだった「晴海」の社員だけは知っている、

 ということは、このスーツの男性は、「璃菜」がインターンしている「黒蝶」の社員か? もしくは……

「お前? 黒木胡桃だろう?」

「えっ? なんで私の名前を?」

 いきなり、自分の名前を呼ばれ、段ボールを落としてしまう。

「あっ!」

「おい! その箱の中、大事な物が入ってるだろう!」

 黒木が落とした段ボールをスーツの男性が床に落ちる寸前の所でキャッチしていた。

「すすみませんん」

 謝りながら、スーツの男から段ボールを受け取ると、中身がなんともなっていない確認する為に、段ボールの蓋を開ける。

「!」

 段ボールの中に入っていたのは、メイド服と猫耳、そして、懐中時計?

 えっと、三野宮編集長が、晴海の棗編集長から借りた物ってコスプレ衣装?

 私に、人の趣味をどうこう言うことは出来ないし、自分だって、人には言えないこの一つや二つあるし。

 それに、もしかしたら、雑誌のイベントとかで使ったのかも知れない。

 そう! そうに決まってる。

「それ? 晴海の棗萌って、編集長の私物だろう? 黒木? お前、それ着たのか?」

「はあ?」

 スーツの男性の予想も遥かを超えた問いかけに、黒木は思わず、「はぁ?」と返事を返してしまった。

「あぁすみません。これは、三野宮編集長から、晴海の棗編集長に返してきて欲しいと頼まれた物なんです。あの? どうした私の名前を知っているんですか? それに、あなたは、一体誰なんでんすか?」

 黒木は、なにごともなかったのように、段ボールの蓋を閉じ、目の前にいる男性に、どうして自分の名前を知っているのか、そもそも貴方は誰なんですか? と尋ねた。 

 すると、スーツの男性は、まるでその質問が来るのを待っていたかのように、笑みを浮かべ。

「俺は、黒蝶の堂城誠也。黒木胡桃。お前のことは、小泉璃菜から教えて貰った。野心家で、男勝りの女がいるって。けど、俺から言わせると小泉璃菜、あいつの方がよっぽど男らしいと思うけど?」

「えっ! 璃菜が! あぁ! すみません! 私の知っている普段の小泉璃菜は、優しくって、まさに、ザ! 女の子なので」

「……ザ! 女の子? あいつが? なにかの間違えだろう?」

 黒木の言葉を否定するかのように、悪魔の笑みを浮かべる堂城。

「あぁあの? 璃菜は、そちらではどのような仕事をしているんですか?」

「……脅迫だよ?」

「えっ?」 

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