第10話

「今のは、流石にあんまりじゃない? 一人の方はともかく、女の子は、貴方のこと、本当に心配してくれてるんじゃあないの?」

 自分のことを心配してくれた百花と水川を、冷たい言葉で払いのけ、屋上を出て、階段の丁度半分まで降りてきた所で、犬塚梨々花が自分のことを待っていた。

「……梨々花?」

「堂城君。貴方が他人に自分の弱みを見せないのは、黒蝶時代からの悪い癖だけど、少しぐらい弱みは、嫌われるわよ!」

 突然の梨々花の登場に、堂城は思わず足を止め、彼女の名前を呼ぶ。

 それも、「犬塚編集長」呼びではなく、「梨々花」と。

 それにしても、なんで梨々花がこんな場所でいるのだろう?

 堂城は、彼女がここにいるが解らず思わず首を傾げる。

 雫丘出版の編集長である梨々花は、常に色んな仕事を抱えている。

 もし、お昼休憩だとしても、こんな場所で編集長である梨々花が休憩なんて絶対ありえない。

「あのさそんなことより、なんで、」

「ねぇ? 堂城君は、8年前、私と交わした約束覚えている?」

「えっ? あぁ! お前の誘いで、8年前、俺が、晴海の副編集長になった時に、お前と交わしたあの約束だろう?」

(どうしよう? どんな約束だったっけ?)

 いきなり、8年前の事を言われ、実は覚えていないとは言えない。

 なので、ここは、ばれない様に梨々花に話しを合わせる。

「そう? あの約束?」

「その……8年前の約束が、なんでいま関係あるんだ?」

 梨々花に、変に思われない様に、そして、自分の方に話しの主導権が来るように、会話を誘導する。

「どうしてだと思う?」

 堂城の質問に、梨々花が質問で返してくる。

「だから、それを俺に言われても。てか? こんな所で、お前なにやっていたんだ?」

「なにも?」

「なにもって? なにもないのにこんな場所に来ないだろう! それも編集長であるお前が」

「えっ? 私だって、屋上ぐらい来るよ! 気分転換したいとき、外の空気を吸いたい時とか

「いやいやいや。お前は、絶対うちの会社の屋上には行かないだろう! だって、お前、煙草の煙嫌いだろう? だから、自分が編集長になった時、屋内にあった喫煙室を失くして、屋上に新たに喫煙所を作り直したそんなお前が、自ら屋上に行く訳ないだろう?」

 そう、梨々花は、超がつくぐらいの煙草嫌いで、自分の目の前で煙草を吸う人間がいたら、相手が誰であろうと、注意するぐらい、煙草が大嫌いだ。

 だからこそ、屋上に、梨々花が自ら行く訳がない。

「……ふっふ。流石、黒蝶の死神って言われただけはあるねぇ? そうよ? 私は、堂城君! 貴方のことを待っていたの? 棗晴海編集長に頼まれて!」

「棗編集長に! なんで」

 なんで棗編集長が梨々花に?

 編集長は、さっきのことはいなかったから知らないはず。

「それこそ、私に訊かれても困るんだけど? 私は、ただ、棗晴海編集長から、堂城君。貴方の様子がおかしくから、自分の代わりに、彼の相談に乗ってあげてくれないかなって頼まれただけだから。ほら? 私、一応、貴方の元同僚だから」

「なんだよ! 元同僚で」

「えっ? だったら元カノにする? 私は、別にそっちでも構わないけど」

 顔を近づけてくる梨々花。

「おい!」

「なんてねぇ? 今更、そんなことなんてしないわよ? それに、そんなことしたら、あいつが益々うるさくなるし」

「ふふふ」

 突然笑い出す堂城。

「なに?」

 少し嫌そうな顔で、堂城の方を見る。

「梨々花、お前? なんだかんだ言って水川こと気に入ったんだなぁ?」

「まぁねぇ? でも、あの告白さえなければねぇ? もっといいかな?」

「あぁ! あいつ、毎日ように、お前に告白しているもんなぁ? そして、毎日のようにお前に振られている。で、お前の方がアイツのことどう思っていんだ! 本当は好きなんだろう?」

「……全く、お前って奴は。好きだよ! だけど、私からは、絶対言わない。あいつ、水川紘が、私の心の中にある誠也君、お前への恋愛感情を完全に消し去ってくれるまで、私は、誰であろうと付き合うつもりもないし、ましてや結婚するつもりない」

「……梨々花」

「……なんでお前がそんなするんだよ。お前は、お前の意志で、彼女と生きる道を選んでだろう?」

「でも……」

 それはそうだけど、それだと、梨々花は、お前は、いつまで経っても水川と幸せになれない・

「これは、私が幸せになる為に、私が決めた私の決意なの! だから、堂城君も、あんまり一人で抱え込んじゃあダメだよ! 時には、後輩ちゃん、そして、周りに信じることも大事だよ! それに、約束したでしょ? 苦しくなったら、私が相談になるからって?」

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