第6話

「……泉石。お前、1週間前から様子おかしいぞ!」

 応接室で、草津千里とテーブル越しに向かい合いあって、依頼人の事を話していると、突然草津が、渚に仕事とは、全く違う話を振ってきた。

「はぁ?」

「だから、お前なんかこの頃よくぼっとしてるだろ?」

 草津千里とは、同期入社で、同い年であることから、所長命令で事あるごとにコンビを組まされる。

 そのせいもあって、昴ほどではないが一応信頼してる。

 勿論、昴みたいに、表裏隠せず全てを明かしてはいないが。

 渚が、信じるのは、自分自身の心だけ。

 相棒兼親友である鳴海坂昴でさえ、古閑美緒を取り戻すためだけの駒に過ぎない。

 この事を昴に告げたら、自分は、きっと彼に殺される。

 それだけ、渚は誰の事も信じていないし、なんなら、6年前に、彼の心は一度すでに壊れている。

「……草津。ぼっともしたくなるよ。同期が後輩、茉莉川杏奈とできてたら」

「……お前なん……あぁ! なんで解った? 俺が、杏奈と交際してるって?」

「……解るよ! だって、お前すぐ顔に出るし、なんなら、あと同棲してるだろう? それも2~3日で?」

 草津お前のことは、なんでもお見通しだと言わんばかりに、草津の両目を見る渚。

 そんな渚の視線に……白旗を上げる

「あぁ。昨日から同棲してるんだ。でも、凄いな交際はともかく、よく同棲まで解ったなぁ?」

「草津もそうだけど、茉莉川も意外と顔に出るタイプだし。それに、さっき俺を呼びにきた時、お前の話しになった途端、妙にテンションがいつもよりか高くなったから、もしかして、お前と深い関係なのかって」

「そんなことで。渚。お前やっぱりすげえなぁ」

「それほどでも! あぁでも……」

 渚は、急に椅子から立ち上がり、草津の耳元まで行き、その場にしゃがみ込むと小さな声でそっと囁く。

『……可愛い彼女奪われないようね?』

「泉石!」

 草津が驚いて顔を上げた時には、渚の姿は、そこにはもうなかった。

 あったのは、彼が、草津に紹介しようとしていた依頼人の資料と茉莉川杏奈が、男性と抱き合い、熱く激しいキスを交わしている写真。

 そして、その相手は彼自身がよく知っている人物だった。

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