第46話

1月7日 午前12時30分 堂城誠也自宅 リビング

「んん。やっと終わった! おっともうこんな時間か! よし! 間違えもなし保存と!」

 リビングのテーブルで、(昨日夜21時~)早朝の会議で使う書類をパソコンで作成していたら、いつの間にか日付を越していた。

 俺は、作成したばっかりのデータをUSBに保存すると、パソコンの電源を落とした。

 すると、そのタイミングを見計らったかのように、電話が掛かってきた。

_ブブブぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ_ 電話の着信音。

「誰だ! こんな時間に?」

 俺は、スマホを手に取り、電話の相手を確認する。

 電話の相手は、同じ雫丘出版で働き、友人でもある水川紘からだった。

 彼が、自分にこんな時間に電話をかけてくるなんて滅多にない。

 でも、今日は、彼が編集長を務めている黒蝶内で色々あったから、自分に愚痴でも聞いて欲しいのだろう。

 そう思い、俺は、水川にいつもの調子で話し掛けた。

 あいつが素直に自分の愚痴を話せるように。

「水川! 俺、いまから寝るんだけど!」

「…そうだよな? ごめん」

(あれ?)

 なんか様子が違う。

 堂城は、水川の声の状況から、冗談で済ませてはいけないと感じ取る。

「あぁぁ待って水川! 今の冗談だ!」

「冗談?」

「あぁ! 本当だ! だから電話を切らないでくれ!」

 俺は、必死に水川に電話を切らないでと懇願する。

 すると、電話口から水川の笑い声が聴こえてくる。

「ふふふうううふふ」

「水川お前! 図ったなぁ?」

「うん? 何の事?」

 悪びれる様子がない水川に、堂城は、反抗する気力も湧かない。

「それで、昨日の愚痴か?」

「…いぃい」 

 言葉が途中で止まってしまう。

「水川?」

「…堂城。俺、今日、梨々花にプロポーズしようと思ってる」

「…そっか? 応援するよ?」

「そっかって、他に何か言う事ないのかよ? 俺? プロポーズするんだぞ梨々花に! 人生の一世一代の掛けに出るんだぞ」

 一世一代の告白に「そっか」だけで返事を返されてしまった水川は、電話越しに怒りをぶつけってくる。

「そう言われても…俺がする訳じゃあないし。それにお前、この間、梨々花の事嫌いって言ってなかったか?」

 俺の中の悪魔が顔を出す。

「言ってない!」

「えっ! 俺は、梨々花の事なんかなんとも思ってないって? なのにいきなり昨日今日でプロポーズ?」

 俺の中の悪魔が、電話越しの水川をさらに追い込む。

「そそそそれは…その勢いで?」

「勢いで? 好きでもない梨々花にプロポーズ? それじゃあ梨々花じゃあなくても嬉しくないだろう? それに、本気でじゃあない相手からのプロポーズなんて俺は、全然嬉しくないけど」

「…」 

 自分の言葉に急に黙り込んでしまった水川。

 きっと何か思い当たる節でもあったのだろう? だけど、それを俺には話してはくれないだろう?

 俺が、水川に隠し事をしているように。

 水川だって隠し事の一つぐらいあるに違いない。

「まぁ? 人の気持ちなんて変わりやすいからな? まぁ? 告白頑張れよ? 梨々花はああ見えて、乙女チックな所があるから、指輪と一緒に赤い薔薇の花束でも渡してみれば。じゃあ、俺、早朝で会議だから」

「おい堂城! 勝手に切るな!」

 電話を声を無視して、俺は水川からの電話を切った。

 梨々花の事、頼んだぞ!

 梨々花の事、絶対幸せにしろよ?

 あいつは、俺が樹利亜の次に、愛した女性なんだから。

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