第32話

2分後

「…永輝さん?」

 意識を取り戻した美緒は、寝室の自分のベットの上に居た。

「美緒! ごめん」

 そんな美緒に対して、いきなり土下座を始める。

「永輝さん!」

「お前の気持ちに気づかないなんて…」

「永輝さん! 違うの! 突然だったら…」

「…美緒」

 起き上がった美緒の頬はりんごみたいに真っ赤に染まっていた。

「美緒? 左手出して?」

「左手? なんで?」

「いいから」

「解った。これでいい?」

 美緒が差し出した左手の薬指に、小さなダイヤが光る銀色の婚約指輪をはめ込む。

「永輝さん? これって?」

 左手に嵌められた結婚指輪を見ながら涙を流す。

「古閑美緒さん。僕と結婚してください」

「…はい」

 そして、二人は顔を近づけ、そのまま唇を重ねた。

 でも、1年後、今、自分の目の前に居るのは美緒ではなく、彼女から送れらてきた「離婚届と彼女に贈った結婚指輪」

 もう美緒は、自分の元には帰ってこない。

 彼女に渡した結婚指輪が、自分を責める様に光り輝いている。

 まるで…ここに居ない美緒の気持ちを代弁しているかのように…

『永輝さん。私達…偽装結婚…だったんですね?』

 美緒は、悪くない。

 悪いのは…

 ☆ ☆ ☆

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