第7話
「やっぱり、美緒さんだ。僕の事覚えてる?」
振り向いた先に居たのは、背の高い一人の男性。
顔は、光が反射して良く見えないけど、黒のショートカットで、服装は、通勤途中なのか、黒のスーツを着用している。
「あの? すみませんどこかでお会いしましたっけ?」
美緒の反応に男性は、何かを感じ取ったのか手にしていた黒いバックから眼鏡を取り出し、その眼鏡を掛ける。
「これでどう?」
眼鏡を掛けた男性の顔が、さっきまでの光の反射が消えくっきり美緒の前に現れる。
「…渚(なぎさ)くん?」
現れた顔に美緒は思わず、時間が止まりそうになった。
そこに居たのは、初恋相手であり永輝さんと結婚を前提に交際する前に、交際していた泉石渚(せんせきなぎさ)だった。
あの頃と姿が全然違っていたので、渚くんが眼鏡を掛けるまで分からなかった。
「やっと、思い出してくれた」
渚くんは、私の方に近付いてくる。
美緒は、渚が自分の方にくる前に、彼に声を掛けた。
「渚くん。また会えて嬉しいけど、仕事だから行くね」
_ドン_
「…美緒さん。なにかあったでしょ?」
「渚くん!?」
渚が美緒を急に壁に押し付けた。
「…美緒さん。僕は、君が、急に居なくなったあとも君をずっと待ち続けた。君が好きだったから」
渚くんとの距離1㎝。
どうしよう胸がドキドキしてる。
こんな気持ちになっちゃいけない。
私は…もう岡宮永輝の妻。
彼宛のあんな手紙を見つけて、正直永輝さんを信じていいのか解らなくなった。
でも、私は…
「渚くん。私、結婚したの。だから、貴方の気持ちに答える事はできません」
美緒は、永輝に嵌めて貰った婚約指輪を渚に見せる。
「…婚約指輪」
婚約指輪を見詰めながら、
「でも、いまの君は泣いてるよね? どうして?」
渚くんの顔が、ドンドン近づいてくる。
それと同時に、鼓動も早くなる。
渚に、それが伝われないように返事を返そうとしたら…
「…なぎ…離して」
美緒の唇に、渚が自分の唇を重ねてきた。
それを美緒は、彼を押し倒すようして跳ね返した。
けれど、勢いが強すぎて渚が道路に倒れこんだ。
「私は、もう古閑美緒じゃあなくて、岡宮永輝の妻、岡宮美緒なの!」
彼が、触れた唇を指で擦りながらその場から逃げるように走り出す。
☆
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