第35話

「堂城先輩。隣いいですか?」

 給湯室で、湯呑を洗っていると別の部屋でデザイナーと打ち合わせをしていた滝川春が、お盆と湯呑を持ってやってきた。

「春ちゃん。そっちの打ち合わせ、もう終わったの?」

「はい!」

「気合い入ってるね?」

「はい。だって、私のデザインが表紙になるんですよ?」

  滝川は、今、今月発売される晴海の表紙デザインを担当している。

「うん! 私も楽しみにしてるよ。春ちゃんが、デザインした晴海の表紙」

「はい! 任せて下さい」

 滝川は、大きな声で頷く。

「ところで、堂城先輩の打ち合わせの相手は、誰だったんですか?」

「えっ!」

 洗った湯呑を食器棚に、戻そうとしていた堂城は、床に湯呑を落とす。

「堂城先輩!? 大丈夫ですか?」

 滝川が、割れた湯呑に触れようとした。

 それを、堂城が、寸前の所で制止した。

「大丈夫! 春ちゃん。ごめんだけど、事務室に行って、箒とちりとり、借りてきてくれるかな?」

「解りました」

 滝川は、道具を取りに給湯室を出て行った。

(…鳴海坂。お前達は、なんで俺達の前に現れたんだ)

★★

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