第32話

元カノである犬塚梨々花からの激励から1ヵ月。(12月12日)

 樹利亜の誕生日と5回目のデート(10月7日)に、俺は、彼女にリナリアを贈った。

 リナリアは、彼女が一番好きな花であると同時に、彼女にとっては、一番好きな人から貰いたいプロポーズの花でもあった。

 俺は、そんな事すら忘れてしまい、彼女に淡い期待を持たせて、奈落の底に突き落とした。

 そして、今日だけと決めつけて彼女を抱きしめ、自分の舌を樹利亜の舌に絡めつける深いキスにとどまらず、彼女の意識がなくなるまで、何度も何度も唇を重ねた。

 だけど、俺は、樹利亜をあいつから、奪う事ができなかった。

 理由は…俺に、樹利亜を幸せにしてられる自信がなかった。

 でも…梨々花や認めたくないが泉石渚の言葉が、俺に、勇気をくれた。本当に認めたくはないが…泉石渚と出会わなければ、俺は…もう一度、樹利亜に会う事もなかったと思う。

 だからこそ、樹利亜から送られてきた返事に、職場じゃなくて自宅だったら、大きな声を出して泣いていたかも知らない。

 それぐらい、樹利亜からのメールは、俺の想像をはるかに超えていた。

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