第52話
居酒屋白藤 19時
「じゃあ改めて! なこの雑誌記事掲載を祝して乾杯!」
「乾杯!」
來未は、なこと乾杯を終えるとジョーキに入ったビールを一気飲み干す。
「それにしても、なこも人が悪いなぁ! 雑誌に記事が載るなら前もって教えてくれてもいいのに! そしたら! 私 今月号、前もって予約したのに」
「そんな事しなくていいから! 記事が掲載されるって言っても、ほんの数ページだから! それに、全ての記事が掲載されるかもわからないし」
そう、もしかしたら、最後の最後で記事自体がボツになるかもしれない。
こればかりは、雑誌が発売されるまでわからない。
だから……
「もうなこは心配し過ぎ! そうじゃあなくても、なこは働き過ぎなんだから!」
「えっ?」
來未からの思いもしない言葉に、持っていたビールジョッキーを落としそうになる。
(來未? あんたがそれを言う?)
なこは、そう口出しそうになった。
しかし、なこがその言葉を口にする前に……
「あぁそうだ! 私、総一郎さんと別れたから!」
「はぁ? 何喧嘩でもしての喧嘩でもしたの?」
突然の婚約者と別れた発言に、なこも自分の話どころじゃななくなる。
「いやぁ? 何も? 寧ろ! 関係は良好だよ! さっきまでメールしてたし」
「はぁ? だったらなんで? 古橋さんの事嫌いにでもなったの?」
「……んんん? 何って言ったらいいんだろうねぇ? 別に彼の事を嫌いなった訳でも、それでいって、彼と一緒にいるのが嫌になった訳でもないんだよねぇ? んんん? 本当なんて言ったらいいんだろうねぇ?」
來未は、まるで、そこに意味があるかのように頭を掻きむしりながら、なこの問いかけに答える。
「ちょっとそこは、はっきりしてよ!」
曖昧なまま返事を誤魔化す來未になこの怒りは頂点に達する。
「…そうだなぁ? まぁ? 一つだけ言えるとしたら、彼への愛がなくなった」
「はぁ?」
「だから、友達としての彼は好きだけど、恋愛感情としての彼はもう好きじゃあない。だから、私からお別れしたの! もう貴方とは一緒に居られないって。私、貴方の事、もう好きじゃあないって。そう彼に伝えたら、最初は……解って貰えなかったけど、最終的には彼にも納得して貰えた」
この発言は全て全くのデタラメ。
來未は、いまでも古橋総一郎の事を愛しているし、叶うなら彼との関係をもう一度やり直したい。
けれど、それはもう叶わない。
私達の関係は完全に決別してしまった。
だから私は、彼を忘れる為、そして、想い出と決別する為に華水を出た。
「……ごめん」
「なこが謝る事じゃないよ! 私が、最後まで総一郎さんを愛せなかったただそれだ!」
「でも……」
「もう! なこが気にしなくていいの! 私が決めた事なんだから! はい! もうわたしの話は終わり! 今日の主役はなこなんだから! 飲もう! 店員さん! ビールおかわり!」
來未は、強引に話を切り上げ、店員に二人分の追加のビールを注文する。
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