第22話

12月11日 5時10分。華水駅 バスターミナル 待合室。

「…全くバカな人なんだから。けど、大好きだよ!」

 総一郎の真実のメールを読み終えた來未は、スマホの画面に向かって泣きながら、彼に最後のメッセージを送る。

 そして、スマホの中にある古橋総一郎との3年間の思い出を全て処分した。

「えっと…残高いくらあったっけ? あぁそうだ!」

 來未は、スマホをカバンに戻し、代わり水色の財布を取り出し、中からパンダのイラストが描かれたICカードを取り出す。

 來未は、ICカードの残高を確かる為に待合いに置いてあったICカード対応の自動販売機に自分のICカードをかざすと残り5000円と表示された。

「5000円か…まぁ? 運賃としては足りるけど、1万ぐらいチャージしとこうかな?」

 華水から葵まで、高速バスで片道2420円で、時間にすると140分(2時間20分)は掛かる。

 來未は、残高5000円と表示されたICカードを再び、財布の中に戻し、そのまま待合室を出て、ターミナル内あるコンビニに向かった。

 コンビニでペットボトル2本(ホットレモンとホットのお茶)と卵サンドをICカード支払い、同時に1万円をチャージして貰った。

 そして、再び待合室に戻り、壁際の椅子に腰かけると買ってきた卵サンドを食べ始めた。

「それにしても、やっぱり、コートぐらいは着てくればよかったなぁ?」

 買ってきた卵サンドイッチを食べながら、自分の恰好を後悔する。

 來未の自分の恰好は、昨日の夜の家でパジャマとして着替えた黒のニットワンピースにジーパン合わせ、寒さを押さえる為の防寒具が黒のマフラーと来週からのクリスマスイベント用に用意しておいた黒のロングブーツだけ。

 コート、どころか荷物を極力少なくするために、黒のリュックサックに貴重品だけ入れてあとは全て栞の部屋に置いてきた。

 でも、勝手に消えるのは、栞と彼女の恋人である遠藤匠さんに心苦しかったので二人への別れのメッセージを彼女の寝室の扉に挟んできた。

 一つは、二人へのお祝いのメッセージ。

 二つ目は、栞がこのメッセージを読んで泣きじゃくった時の保険用に、キャリーケースの上にも彼女専用の手紙をもう1通保険として置いてきた。

 けど、これを栞が読んでくれるかは正直言って解らない。

 そして、もう一つ…

 ☆ 

「葵行きの高速バスがそろそろ到着します。お乗りになるお客様は、2番ホールにお越しください」 

 卵サンドを始めて10分後、待合室に葵行きの高速バスの到着を告げる構内放送が聴こえてきた。

「華水ともこれで本当にお別れか?」

 栞は小さな声でそう呟くと、食べ終わったサンドイッチの袋を小さく丸めると待合室の置いてあった燃えないゴミ箱の投げ入れた。

 そして、リュックサックを背中に背負って、葵行きのバスが止まる2番ホールに向かって歩き出した。

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