第12話

(…茉莉川亜那さん? 彼女は違うのか?)

 杏奈から名前を訊いた草津は、捜していた茉莉川杏奈と言う女性ではなかったので大きくため息をつく。

 だけど、微かの希望を持って、杏奈にもう一つの質問をぶっつけてみた。

「あの? 茉莉川さんは、いつからあの事務所で働いているんですか?」

 この質問は、これまで会ってきた可能性のある女性には毎回してきた。

 だから、彼女の答え次第で、さらに入り込んだ質問をするつもりだ。

「5年前からですけど」

(……5年前! 千里が、茉莉川杏奈に別れを告げた年。やっぱりこの子が、茉莉川杏奈なのか?)

 千明は、杏奈の顔をじっと見る。

「あの? 私の顔になにか?」

 急に黙り込んだと思ったら、いきながいきなり自分の顔を見てきたので、杏奈は、怖くなり一歩後ろに下がる。

「あぁ! すみません。あの、茉莉川さん?」

「はい。なんでしょう?」

 杏奈は、警戒しながらも返事を返す。

「茉莉川さんは、草津千里っていう探偵をご存知ですか? 僕の弟なんですけど?」

「えっ!」 

 杏奈は、手にしていたフルーツサンドを地面に落としてしまった。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫です。えっっと…草津千里さんですよね? すみません。ちょっと解らないです」

 急に飛び出した千里さんの名前に、動揺をして手にしていたフルーツサンドを地面に落としてしまった。

 サンドイッチを拾い上げた後も、動揺が収まらず、胸がバクバク大きな鼓動を響かせている。

「そうですか? あぁ! そう言えば茉莉川さん? 新幹線の時間は大丈夫ですか?」

「あぁ!」

 千明の指摘に、杏奈は腕時計で時間を確認する。

「草津さんすみません! 新幹線の時間なので失礼します。依頼解決するといいですね?」

 杏奈は、草津に対して頭を下げると落としてしまったフルーツサンドが入ったビニール袋とカバンを手に持って駅に向かって走り出した。

 そんな杏奈を見送りながら草津はなにか確信したかのように小さく呟いた。

(…千里。見つけたぞ! お前の大切な…恋人)

 千里。俺はお前に捨てられた当たり前だ。

 俺は、家族…そして…千里、お前が一番辛い時に傍に居なかった。

 だからこそ、お前から兄さんは、捨てられたんだよって言われた時は、その通りだと思った。

 でも…最後ぐらい兄らしい事をさせて欲しい。

 千里。お前は、杏奈ちゃんの事が今でも好きなんだろう?

 だから…いまでも新しい恋人も作らず…仕事を言い訳にして…彼女を待ち続けているんだろう?

 千里。お前は、彼女ともう一度、人生をやり直すべきだ。

 いやぁ? 二人で幸せになれよ?

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