第2話

「江里口さん。おはようございます」

 いつものように、制服に着替え、事務所の外を箒で掃除をしていると、事務所の先輩である江里口碧(えりぐちあおい)が大きなあくびをしながらやってきた。

 江里口さんは、自分より5歳年上の30歳の男性。

「ぁぁぁぁぁぁぁぁ亜那ちゃんおおはよう」

 あくびをしながらの挨拶なので、挨拶と杏奈の名前が一緒になっている。

 でも、当の江里口はその事に気づいていない。

 杏奈は、掃除を一旦切り上げ、あくびをしている江里口話し掛ける。

「江里口さん眠そうですねぇ? もしかして、今までお仕事だったんですか?」

 江里口さんは、杏奈のその言葉を待っていたかのようにマシンガントークを始めた。

「そうなんだよ! 訊いてよ! 今回の依頼は、旦那の不倫に悩む、30代の奥さんからの浮気調査だったんだよ! でも、いざ旦那さんの周辺の身辺調査を始めると不倫をしていたのは、実は、調査の依頼してきた奥さんの方で、その相手もまさかの旦那の実の弟さんだったんだよ! あり得る? こっちは、昼夜寝ずに走り回て、証拠を集め回って、浮気の証拠を集めようと頑張ったのに、結果は、旦那は不倫もしていなければ、浮気すらしていなかった。そして旦那さんが会っていたのは、実は年の離れた姉。なんなのあの人? いったい何がしたかったの!」

 かなりイラついているのか、髪をくしゃくしゃと何度もかく。

「…お疲れさまです」

 杏奈は、そんな江里口にお疲れさまですと一言告げるとそうと…箒を手に取り逃げるように離れた。

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