family 家族

第60話

『一夜君!?』

 昼休み友達と一緒にグランドで遊んでいたら、担任が零の名前を叫ぶながら走ってきた。

 その姿に、一緒に遊んでいた友達の一人も驚いて、担任に同時に話し掛けた。

『神坂先生!?』

『どうしたんですか?』

 はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!

 零の達の前に着いた担任(黒いショートカットが似合う三十歳の女性)は、呼吸を整えると、零の肩を掴み、零の友達に声を掛けた。

『清水君。針谷君。先生、一夜君に大事な話があるの。だから、少しの間、一夜君の事借りてもいいかな?』

『僕達なら別に構いませんよ? ねぇ恭弥?』

 智樹が確認するように恭弥に声に掛ける。

『先生、何かあったんですか?』

『うんちょっとねぇ? だから、一夜君の事ごめんだからちよっとだけ借りていくねぇ?』

 神坂は、恭弥の質問に言葉を濁す。

『でも、いつものんびりしてる先生が、ここまで息を切らしながら走ってきた事は…相当やばい事やらしたんじゃあないのか? お前?』

『…やってないし!』

『智樹!』

_ガシ_

 恭弥、智樹の頭の軽く叩く。

『神坂先生すみません。僕達の事は気にしないで、どうぞ行ってください』

『…そう? じゃあ一夜君行きましょう?』

 神坂は、二人の行為を注意しないといけないが、今は恭弥の言葉に従って零を連れてその場を離れた。

 ☆

 二人がいなくなったことを確認した恭弥は、智樹に向かって、

『智樹! 零は、俺と違って超が付くぐらい純粋で同じぐらい冗談が通じないって前に教えたよな?』

『きょきょう恭弥! ちょっと顔怖いよ』

『……智樹。叩かれるのどこがいい? 太もも? 手のひら? それとももう一回頭?』

『ごめん』

 恭弥と零は、幼稚園の頃からの幼馴染。

 だから、幼稚園の頃から零と彼の両親とも家族ぐるみで交流のある恭弥は、彼の性格と人格をよく熟知していた。

 なので、そこに小学生になって、急に加わった智樹の存在は、恭弥にとっては何も問題はないのだか、零にとっては良くも悪くもどちらも言えない。

 零と智樹。二人の性格は、まるっきり正反対。

 だからこそ、智樹は、純粋で冗談をそのまま真に受けてしまう零の性格がおかしくてよく彼の事をおもちゃ扱いしてしていた。

 そんな智樹の行為を最初こそは、零も言い返していたが、最近は諦めて完全に無視している。

 でも、今日の智樹の言葉には、さすがに担任の前だったのか、零も無視できなかったらしい。

『……智樹……次はないから』

『……恭弥。冗談だよねぇ?』

『……何言ってるの? 俺はいつでも本気だよ』

『……』

 いつも、ニコニコしている恭弥の顔が、無言で唯一笑っているのは、唇だけ。

 けれど、その唇も優しい笑みはなく殺意がこもっていた。。 

 その姿に、普段の優しい恭弥しか知らない智樹は、言葉と同時に体が動かなくなった。

 それぐらい智樹の目の前に居る恭弥は、普段とまるっきり別人に見えた。

『智樹!』

 恭弥が、いつもの優しい声で智樹の名前を呼ぶ。

『!?』

 突然、いつもの恭弥に戻ったので、びっくりしてすぐに体と声が反応できなかった。

 ☆ ☆ ☆

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