第59話

「社長!」

 黒鳥からの通信に遼は、少し動揺してしまう。

『……一之瀬。お前のインカムを彼に渡せ』

「社長! 何言ってるんですか?」

 本来、Black Bird に所属する探偵は、自分のインカムを他人に絶対渡したりしない。

 インカムに登録している個人情報を盗まれない為。

『いいから早く渡せ』

 けれど、遼も黒鳥には逆らう事ができず、 

「なにか考えがあるんですよねぇ?」

と若干諦めモードの返事を返す。ここで、もし反抗でもしたら自分が社長に殺される。

『あぁ。それと、一之瀬、怯えすぎ。相手は子供だぞ!』

「……」

 黒鳥が事務所に連れてくるまで絶対手を出すなと言うから、彼の様子が突然おかしくなっても我慢して手を出さなかったのに、張本人からそう言われ、返す言葉が出ない。

『お~い。一之瀬? お~い』

 何も返事が聴こえなくなったので、黒鳥が遼の名前をインカム越しに呼びかけ始めた。

 インカムから聴こえる黒鳥の声を無視して、自分に再びサバイバルナイフを向け、近づいたきた零の手からサバイバルナイフを奪い取り、代わりに自分の拳銃(安全装置付き)を彼の心臓に押し付けた。

 拳銃を零の心臓に押し付けたまま、社長に返事を返す。

「……社長。このまま、彼、痛めつけてもいいですか?」

『一之瀬! やめろ』

 インカムから黒鳥の焦った声が聞えてくる。

「ねぇ? お兄さん、さっきから一体誰と話してたんの? あんたさ、今の自分の状況分かってる?」

 _カチ_(拳銃の安全装置に指が少し当たる)

 黒鳥との会話に突然割り込んできたゼロ(但し、遼から見れば零)。

 けれど、ゼロは額に拳銃が向けられているのに怯える事もなく、むしろ笑みを浮かべていた。

 そんなゼロを見て、遼は拳銃の安全装置にゆっくり指を掛ける。

 _カチ_

「拳銃!?」

 叫び声が部屋中に響き渡る。

 声の主は、もちろん……

「一之瀬さん!?」

 いつの間にかゼロから一夜零に戻っていた。

 その様子を遼のインカム越しで聞き耳を立てていた黒鳥は、インカムに向かって衝撃な内容を語り始める。

『……一之瀬。一夜零は、二重人格だ』

「二重人格!?」

 黒鳥から伝えられた内容に、拳銃が手から床に落ちる。 

「……unreliable 信用できない」

 悲しい声で一言英語単語を呟くと、耳につけたインカムを取り外し、テーブルの上に置くとそのまま部屋から出て行ってしまった。

 そして、そのまま寮から外に飛び出した。勿論、拳銃を持ったまま。

 ☆

「uureliable 信用できない」

 この英語単語を一言悲しい声で呟いて零くんは、部屋から出て行った。

 そして、机には行き場をなくしたインカム。

 床には、自分が零くんの額に押し付けた拳銃が落ちたまま。

「……二重人格、零くんが」

 社長の口から語られた衝撃な真実に、心と体が追い付かない。

「だって、さっき自分に悲しそうな声で信じられないと言った零くんと人を殺す事に抵抗のないあの零くんが同一人物なんて、ましてや零くん本人にはもう一人の人格の自覚すらないなんて……」

 社長からの告げられた内容は、遼が想像していた内容よりあまりにも衝撃ですぐには受け入れる事ができない。けど、それよりも、いまは二人の傍に居たい。すぐには、信用して貰えないと思うけど。

「社長! 彼らをこれからも傍で見ていきたいです」

『……一之瀬。初めからそのつもりだ。俺も彼らを傍で見ていきたい。そして、できればもう一人の彼とも話していみたい。彼とは、気が合いそうだ』

 インカムから聴こえてくる黒鳥の声は、いつもより弾んでいた。

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