第22話

『…框様。あの大変もう上げにくいのですけど、これは我々よりも警察にご相談された方がよろしいかと?』

 翔吾のメールを読み終えた朧が申し訳なさそうに、翔吾に話しかける。

『…』

 朧からのまさかの言葉に翔吾は、依頼を受けて貰えなくなるのかと不安に駆られる。

 もし彼らに天童穂積捜しを引き受けて貰えなかったら…ゆかりの居場所が掴めなくなる。

 天童穂積は、ゆかりの居場所を聞き出すため餌でしかない。

 本当の目的は、10年前、天童穂積と一緒に俺の前から姿を消した逸見ゆかりを見つけ出しこの手に取り戻す事。

 だからこそ、普通の探偵事務所ではなく、あえて裏社会のそれも捜し物に特化したBlackbart に捜索を依頼した。

「…朧さん。さっきから何見ているんですか? あぁ!」

『…零!』

 いきなり恋人の演技を再開した零は、朧が手に持つ翔吾のスマホを奪い取り、メールに添付されている女性を指差しながら朧を迫る。

「朧さん! このゆかりって女、誰! それに、この携帯、私がプレゼントした携帯じゃあない! まさか朧さん! このゆかりって女と浮気してるんじゃあ?」

『…零! おい! いきなりなに言い出すんだ』

 いきなり再開した恋人の演技についていけない。

 それどこかどういう訳か、新たな設定が加わり俺が写真に写っている女性と浮気をしているというありもしない設定が加っていた。

 インカム越しに俺は、零にこのおかしな設定をいますぐ訂正しろと訴えた。

 しかし、零は、俺のその訂正を受け入れるどころか…

「ひどい! わたしは遊びだったんですね?」

 涙を流しながら朧の翔吾の元から走り去っていこうとする零。

『零! ちょっと待って! 一体なにがあったんだよ』

 演技ではなく、本当に自分らを置いて持ち場を離れよとしている零をインカム越しで怒りながら右腕を掴む。

「離してください! 私の事なんかどうでもいいんでしょ!」

 朧が掴んできた手を強引に振り払い、持ってきたカバンをその場に投げつけるとそのまま走っているか広場から出ていった。

『…あぁあの蜩さん? あれも演技の一環なんですよねぇ?』

 翔吾は、零がその場に投げつけたカバンを拾い上げながら、インカム越しに朧にそう尋ねる。

 しかし、肝心な朧からは一向に返事が返ってこない。

 それどころか、朧も状況が掴めず頭を抱えていた。

『…なんなんだよ! 零の奴!』

『…蜩さん?』

 翔吾は、もう一度朧に声を掛ける。

『あぁすみません。框様、あいつが持って行ったスマホは、必ずお返しします! 全く零奴の何のつもりで框様のスマホを持って行ったんだ!』

『蜩さん! スマホなら大丈夫です そんな事より一夜さんのあとを追い掛けて方が…』

 翔吾に向かって頭を下げていた朧に、自分のスマホより演技とは言え泣きながら自分達の元から走って居なくなった零のあとを追い掛けた方がいいと提案しようとしたら…

「…女性を泣かせて楽しいですか? 浮気してもばれないと思いましたか? そう思っているなら貴方は人として最低な人間ですね?」

 いきなり現れたショートカット女性は、朧に冷たい言葉を投げかけると何事もなかったかのように二人の前から居なくなった。

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