第30話

「じゃあ……まさか今回の依頼?」

「あぁ! 間違いなく社長が絡んでるんだろうなぁ? そして……』

 最後の最後で言葉を切り上げ、朧の顔をじっと見る。

『なんだよ。言いたいことがあるならもったいぶらずに早く言えよ!』

 突然の零の顔近づけにイライラしながらも、言葉を返す。

「2年前、お前とお前の恋人だった春村瑞穂の事件が深く関わってる」

「なんで? ここで瑞穂が出てくるんだよ! あいつは関係ないだろう?」

「それがあるんだよ! だからこそ、社長は、框翔吾に俺たちを指名するよう指示にお前と框翔吾を引き合わせた」

「なんだよ!」

 答えは聞かなくても解っている。

 けど、自分はその答えを聞かなければいけない。

 彼女の為にも。

 そして、自分の為にも。

(……はぁ? 聞かなくても解ってるくせに)

 零も朧のそんな感情を読み取ったのか、彼に聴こえないように小さな声で

「なにか言ったか?」

「別に? ただ、あの社長も4年前に比べてえらく丸くなったなぁって?」

「なんの話?」

 朧ははなしの意味が分からず首を傾げる。

「あぁごめんごめん。こっちの話。それより框翔吾は、社長と取引をしたんだと思う」

「取引?」

「あぁ! 框翔吾は、正真正銘表社会の人間だ。そして、捜し人である天童穂積も間違えなく表社会の人間だ。本来だったら、依頼どころかBLACKBartに足を踏み入れることすらできない。だから、社長と取引したんだろう?  

こっちが天童穂積を無事に確保したら、なにか社長に差し出すって?」

「なにを?」

 ゴクリ。痰を飲み込む音。

 まさか、命じゃあないよなぁ?

 朧は、零に聴こえないように心の中で呟く。

「そりゃあ、探偵事務所なんだから、情報に決まってるだろう!」

「そうだよなぁ? あぁはぁぁ」

 だよなぁ。朧は笑顔で頭を掻く。

「どうでもいいけど、染島隼人からメール早く見ろよ!」

「あぁうん!」

 零の言葉に、朧は自分のスマホ(仕事用)を見る。

「!」

 メールに添付された写真には、二年前と見た目は、全然変わっているが、二年前、恋人を奪った五条龍也の顔がはっきり写っていた。

 それも満面の笑みを浮かべていた。

「……どうするかお前が決めろ!」

 メール画面を見て固まっている朧に、零は問いかける。

「おおれは……復讐したい。この手で奴の息の根を止めたい」

「…あっそ!」

 朧のその言葉に零は彼の両耳腕を伸ばすし、インカムを奪い取るとそのまま地面にたたきつけた。

「なにすんだよ!」

叩きつけられたインカムを拾いながら朧が零に向かって叫ぶ。

 そんな朧に対して、零が冷たい声で、

「……なにって? お前、俺に言ったよなぁ? どうするかは自分で決めろって?」

「そそそそれは……」

 確かに言った? 

 けど、それとこれとでは、話が全く違う。

「……なんだよ? 俺には、自分で決めろって言って? やっぱり? 止めるか? 五条龍也への復讐?」

「やめる訳ないだろう!」

 零の「復讐止めるか?」の言葉に、一瞬体が固まってしまう。

「あっそ? じゃあ? 死なないことを祈ってるよ?」

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