第5話

午前9時30分 鈴蘭学園高等部 2年A組 

『零。お前、今どこに居る?』

『はぁ! 学校に決まってんだろ』

 一夜零は、授業中に突然インカムに聞こえてきた蜩朧の声に、呆れながらも返事を返す。

 零は、「Black Bird」の一員である前に普通の高校生でもある。

 だから仕事が無い日は、普通に学園生活を送っている。

 インカムは、特殊なやつを使用しているので他の人には見えない。

『零。仕事だ』

 普段自分が学校に居る時は、朧はあえて気を使って絶対連絡をしてくる事はない。

 だから、それだけ、今回の仕事は緊急を要する。

『…どこに行けばいい?』

『もう居る』

『はぁ?』

 窓から外に視線を向けると、校門からこっちらを見つめている朧と目が合った。 

『はぁ……すぐ行くから目立つから裏門で待ってろ!』

 インカム越しで、朧にそう注意すると、黒板で字を書いている担任で数学教師の梅津に向かって……

「あの? 梅津先生」

「一夜? どうした?」

 黒板に数式を書いていた梅津は、零の呼びかけに手をやめて後ろを振り返る。

「…急に悪寒が…あと頭痛がしてきて保健室行ってきていいですか?」

 仕事で病人の演技を数多くこなしているのでこのくらいは朝飯前。で、今回零が選んだのは、頭痛。

 頭痛が零の演技だと知らない先生は、頭を押さえる零の演技を疑う事なく、保健室……

「音風!」

 梅津は、音風幸也と言う男子生徒の名前を突然を呼んだ。

「はい!」

 そして、呼ばれた音風幸也も驚くことなくその場に立ち上がる。

「一夜を寮に連れ行ってやれ!」

「一人で大丈夫です! それに保健室で大丈夫です!」

 零は、すぐさま梅津に反抗する。

 しかし、そんな零の言葉を無視して、

「次の授業の渡里(わたり)先生には、俺の方から事情を話しておくから、一夜のこと頼んだぞ!」

 ※渡里先生は、数学の先生で今は一限目・

「解りました! 行こう? 一夜」

 梅津の言葉に、幸也は小さく頷くと、素早く零の元まで歩いていき彼に声を掛ける。

「……あぁ」

 一方の一夜も、この際学園を抜け出せるなら、むしろ保健室より寮の方がいいと考えを改め、素直に二人の提案を受け入れる。

 ☆

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