第3話

捜し物探偵事務所「white」 3階:資料保管室

『……零は、俺のことそんな風に思ってたのかよ!』 

 2ヶ月前の黒鳥恭輔元「blackBart」社長による殺人未遂事件後、俺は、城谷純也「現white:旧blackBart」社長の元奥さんで鈴蘭病院で看護師をしている葉月由梨さんと裏警察の柳那央さんの力を借りて、特定の人物に向けて死を偽装し、その偽装を完全に信じ込ませる為に、1ヵ月、表裏どちらの世界から外との接触を一切たった。

 その甲斐もあって1ヵ月後。

 自分の死(偽装)は、完全にその人物に知れ渡り、俺は、心置きなく表裏どちらの世界でも再び生きていけることになった。

 ただ、今回の出来事で失ってしまった物がある。

 それは、一夜零として普通の生活。

 そして、親友、音風幸也とのあったかもしれない普通の日常。

 そう、零が唯一自分の死の偽装した相手、それは……音風幸也。

 零は、幸也の幸せの為に、そして、自分との関わりを完全に消し去る為に、自らの死を偽装し、彼の未来を護った。

 そして、周りの人間が幸也に真実を告げない様に、学園長あてに、偽装した自らの死亡通書と退学届けと一緒に送り、幸也が完全に自分の死を信じるよう、学園中に自分の死を信じ込ませた。

(※学園の件は、恭弥には話していない)

「これでいい。これでみんなが幸せに……」

 なんで、俺はこんなに胸が痛いだろう?

 なんで、俺はこんなにも寂しいだろう?

「零!」

 資料室の扉が開き、恭弥が部屋の中に入ってくる。

「恭弥!?」

 突然、自分の目の前に現れた恭弥に、零の手からスマホが落ちる。

 そして、その衝撃で……幸也の最後の例のメッセージが再生されてしまった。

「零、それって……」

 再生されたは音風幸也からのメッセージに、驚きながらも零の顔を見る。

 しかし、零は、そんな恭弥の言葉と視線を無視して、スマホを拾い上げ、

「あぁ! コレ? 笑えるよなぁ? 幸也からの最初で最後のラブレター。それも愛のこもったラブレターじゃなくて、恨みつらみの方なぁ?」

 もう一度、今度は、恭弥にはっきり聞こえる形でメッセージを……

「……お前から幸也くんに別れを切り出したんだろう?」

「お前、なんで……あぁ!」

 口を押える。

「やっぱりなぁ! お前? 本当にそれでいいのか?」

 零にとって、音風幸也は、俺や智樹、そして、元相棒で今は、恋人の蜩さんとはまた違う、零にとってかけがえのない親友。

 そんな幸也くんに、零は自ら別れを告げた。

 まぁ? 零の気持ちも分からなくはないが。

「ふふふ」

「なに笑ってるんだよ」

「ごめんごめん。そう言えば、恭弥にはまだ言ってなかったけど、俺? 幸也の中じゃあもう死んでるんだよ!」

 突然のカミングアウト。

「なんだよそれ! お前……幸也君はお前の親友なんだろ!」

 零の胸ぐらを思いっきり掴む。

「当たり前だろ! あいつは俺にとって一番の親友だよ! でも、それ以上にあいつには、明るい未来がある。そんなあいつの未来を俺が奪える訳ないだろう! 俺は……」。

「もういい!」

 恭弥が零を抱きしめる。

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