あんた、最低の先生だ!

崔 梨遙(再)

1話完結:900字

 高校の時、女子もいなかったが、女性の先生もほぼいなかった。全学校で、ほんの数名だった。その中の1人に、英語のオバチャンがいた。小柄で華奢な50代。ああ、せめて20代か30代だったら教室も華やかになるのに。


 

 或る日、そのオバチャン先生が板書していた手を止めて、くるりと振り返った。満面の笑顔だった。


「あんた等、○○駅の近くにいったことある?」


 みんな、答えない。オバチャンが楽しそうに一方的に話すだけだ。


「あそこらへん、ホームレスがいっぱい集まってるらしいで」


 誰も答えない。


「ほんで、夜になったら更にあちこちから集まってきて一列に並んで、道路の上で寝るらしいで」


 そんなの、ほとんどの生徒が知っている。


「それからな、靴! 靴が右足だけとか、左足だけとか、片方だけで買えるらしいねんで、信じられる? 片方だけ傷んだときに買うんかなぁ?」


 それも、ほとんどの生徒が知っている。


「ほんで! オカマさん! オカマさんが沢山いるんやって!」


 オバチャンのテンションはどんどん上がる。


「オカマさん同士、ホテルに行くんやって! 昼やで! 真っ昼間からやで!」


 同級生はオバチャンを注目していない。その街に住んでいる僕がどういう対応を見せるか? そっちの方に興味があるようだった。


「それに! 昼間から酔っ払って歌ってるオッチャン達がゴロゴロいるんやって、みんな、そんな街が日本にあるって、信じられる? ヴィ〇ンとかの財布も新品が3千円とか4千円で売られてるらしいで、信じられる? SFの世界やなぁ! そんな街があるなんて、笑えるやろ?」


 と、オバチャンはそこで一度黙ってからボソッと言った。


「まさか、この中に、あんなところから来てる生徒はおらんやんなぁ?」


 “『あんなところ』って、どんなところだよ!”


 その時、クラス中が熱くなった!


「崔! 怒れ-!」

「崔! キレろ-!」

「崔! SFって言われてるぞ-!」


「いや、怒る気もせえへんし、気分が悪くなったから帰るわ」


「うわ、住んでる子がいるの? 知らんかったわ」


 僕はカバンを担いで席を立った。そして、オバチャンの前を通り過ぎる時に、


「あんた、最低の先生だよ」


それだけを言った。







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