第52話
「かわいいね、上野さん。」
そういう廣田くんは、相変わらず余裕で、あたしだけが余裕なくて、いっぱいいっぱいで、廣田くんに身も心も翻弄されてる。
「あ、もうあと5分で、次の授業が始まるよ。
俺、先に行くね。」
廣田くんは、涼しい顔して去っていった。
あたしは、廣田くんから与えられた熱でどうにかなってしまいそう。
トイレに行き、顔を洗う。
鏡を見ると、さっき、廣田くんの唇が触れた自分の唇が映る。
あたしは指先でそっと触れ、さっきのことを思い出す。
唇に見とれていたら、チャイムが鳴り始め、慌ててトイレから出て、教室へと急ぐ。
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