アーテーの谷

間何歩

第1話 序章

 白い衣をまとった人が話し込んでいる。

「この技術を認めないのはどうしてなんだ。」

男は怒気をはらんで机を叩いた。机に向かい合ってる男は何度目なんだという態度で答えた。

「大陸の影響だ。あの強国が文章で書いてあるからだ。」

「馬鹿な。どうして事実を認めようとしない。」

「認めないのではないさ、不利益なことは無いことにする約束なのだ。」

「不利益、不利益だと言ったのか。まだ、生まれたばかりだ。赤ん坊に将来何の仕事に就くか言い当てろというのか。」

「人は認識しないものは見ることができない。これはこの世にないことになってるのさ。」

「本当に無視することができるのか。」

「いいや、いずれ報いを受けるだろう。」

白い衣の男は声を一つにして言った。

「世界に報いを受けさせよう。」


 大陸の遥か外れに位置する島がある。島の名前はイグノア島という。イグノア島は神話の時代に神々の戦争のおり、神々とその眷属たちが神を倒し世界を雷で焼き払ったとされているのだが、神々さえもこの島を見逃していた。焼き払われずに済んだ島には古代の文明の跡が残り独特な生き物たちが生息している。イグノア島は外界から隔絶されているが安全であるということではない。古代文明の発明した機械はアーティファクトと呼ばれ、独特に進化した生き物はモンスター化している。島の中には危険な古代文明の残した機械やモンスターが徘徊しており、無視したものは病を得たり落命した。この島のルールはどんなにおかしなものであっても無視しないことだ。無視しないものこそ、この島で暮らす権利を持つ。イグノア島はそんな人が存在する島だ。

 イグノア島は女神・アーテーが創造した大地だとされている。神々の雷が世界を焼き滅ぼした際に不可知化のベールで世界を覆い神々の目を胡麻化したのだ。それでも、イグノア島は人々の怪我と病の声であふれていた。哀れに思った女神は大地を陥没させ、一筋のキラメキを怪我や病気の人々に降り注がせた。たちまち苦痛に気が付かなくなり、怪我や病気が綺麗に治ったとされる。イグノア島の人々は女神をたたえ一神教の女神となった。

 イグノア大陸は自然が豊かである。海は冷たい海流が魚を太らせ漁業が盛んである。島には平地が開けており、農業も盛んだ。海と山の幸は商売を盛んにした。商売で手に入れた素材を加工する町が現れ、商品を求めて大きな都市ができた。自然の豊かさは景観の良い観光都市もできる。

 イグノア島で暮らす人は土地の恵みを享受するのか、自然物に加工や商売をして銭にするのかの考え方で対立した。土地の恵みを大事にするものは王国・ヒートレイを作り、銭を大事にするものは共和国・ムーンライトとなった。

 

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