第二十三話 野戦、そして籠城へ
穢多崎砦が陥落した後も、近隣の村などで小競り合いは度々行われた。
豊臣方は大坂城北東の鴫野村や今福村付近に防衛線を展開しており、堤防上に柵を設置して、軍勢の行軍を制限していた。攻める側にとって、この柵は通行の邪魔であり、逆にここを押さえて砦を建設すれば、大坂城側にとって嫌な存在となる。徳川方はこれらに目を付けた。
十一月二十六日、これらの防御拠点攻略に、鴫野村には上杉景勝五千を本隊に後詰として
当時の大和川は大坂城東側、平野川のさらに東を南方から、ぐるりと回って、城の北側を流れる淀川に合流していた。鴫野村は平野川と大和川の間にあり、今福村は大和川の北岸にあった。そもそも、この辺りは湿地帯で周りには田んぼだけが広がり、軍勢が行軍や展開出来るのは堤防上のみで、大軍を動かすには不向きな場所であったのだ。
徳川方の両軍は夜半に進軍を開始。夜明け頃、上杉景勝は采配を振り、
「掛かれっ!!」
と、下知を飛ばした。同時に、北岸の佐竹義宣の軍勢も攻撃を始めた。
上杉、佐竹両軍ともに、護る大坂方の二倍以上の兵力で当たり、行動に制限のある地でも優位に戦いは進んだ。
鴫野では、大坂方が設けた防護柵を上杉方が奪取して占拠した。守備隊を指揮していた井上頼次は戦死。上杉方は当初の目的を達成したが、秀頼の命を受けた大野治長が救援として一万二千もの大軍で来援、反撃に転じたため、上杉方は防戦しつつも押し戻された。指揮を執る大野治長が、
「今こそ、亡き太閤殿下の大恩に報いる時ぞ! 狗盗の輩なぞ、追い払えっ!!」
と発破を掛けて奮起を促せば、
「所詮、奴らは浪人たちの烏合の衆だ! 蹴散らせぃっ!!」
と景勝が怒声を上げる。
上杉隊は、新手の豊臣方の勢いに第一陣は後退したものの、未だ士気は高かった。
「殿っ! 鉄砲隊、準備、整いましてございまするっ」
「よし、鐘を打ち鳴らせっ!! 鉄砲を射掛けるっ!! 前衛は左に避けいっ!! 田んぼに落ちても構わん! 後で拾うてやる!! 飛び込めっ!! 鉄砲隊、前へ!! 放てぇっ!!」
景勝の下知に、第二陣の
「今じゃ! 押し返せっ!!」
と、続けた景勝の指揮に上杉勢は奮闘。狭い堤防上で相手を包囲出来なかったため、一万二千余の兵力を活かしきれなかった大野治長率いる豊臣方は撤退した。
今福村側では佐竹方が兵数の差そのままに、二人の豊臣方守将を討ち取り、防護柵を占拠した。
その後、遅れて増援に来た豊臣家の重臣、
「ええい、押し留まれ!! ここが踏ん張り所ぞ!」
対応に苦慮した佐竹義宣は、南岸の鴫野村を制圧した上杉隊に助勢を求めた。佐竹勢の助勢の求めに気付いた景勝付きの近習が、戦が
「殿! 佐竹殿の陣より、何やら言うておりまする」
「何じゃ。あちらはまだ、
「どうやら、助勢を求めておるようですな」
対岸を見やった景勝は呆れ気味に呟き、家老の直江兼続が状況を推し量って景勝に伝えた。
「助勢? おお、確かに押されておるようじゃな。仕方ない。手を貸してやれ。親憲! 鉄砲隊を率い、川岸から射掛けい!
「はっ、直ちに!」
上杉隊と、兼続からの知らせを聞いた堀尾隊、榊原隊が対岸より、豊臣方の木村隊、後藤隊に鉄砲を射掛けた。ここに丹羽隊が含まれていないのは、所持していた鉄砲の数が多くなかったからである。
「退けい、退けいっ!! 退却だ! 大坂城に戻れいっ!!」
上杉隊らの側面よりの銃撃、それにより盛り返した佐竹隊の攻勢に、木村重成は退却を命じた。佐竹隊を崩せそうなまでに木村隊、後藤隊が押していたがために、両隊は対岸の動きまでは眼中になかったのである。
側面から不意を突かれた豊臣勢は損害を受け、撤退していった。
「ようやった。褒めて取らす」
戻って来た大野治長、木村重成、後藤基次らの奮戦に、気を良くした秀頼は労いの言葉を掛けた。
撤退したとはいえ、徳川方の攻撃に真っ向から張り合って善戦した彼らに、秀頼を始め豊臣方は自信を持った。
ところが――。
続く、二十九日の博労淵の砦、野田・福島の砦での攻防では徳川方に一方的に敗れ、豊臣方はやむなく周辺の砦を放棄、火を放って焼き払った後、大坂城に籠城することになったのである。
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