第十八話 戦後処理
三成亡き後、西軍に属していた大名たちは、家康によって次々と処分された。
三成の処刑に先立つ九月二十五日、大坂城にいた西軍の総大将、毛利輝元は城を退去。西の丸を家康に明け渡した。
関ケ原の戦いの後、福島正則、黒田長政、加えて家康家臣の本多忠勝、井伊直政が説得を続けており、家康は本領安堵の意向がある――と伝えたからである。本家を護るべく東軍に与した吉川広家が、
「当主の輝元公は総大将に祭り上げられただけである」
と家康を説き伏せたのが、効いたようだ。
義兄弟の契りを結んでいたのに、敵対した家康に会うのが怖いのか、顔を会わさずに済むように、輝元は家康が戻ってくる前に大坂城を出た。
その二日後の九月二十七日。代わって入城した家康は秀頼に拝謁、ことの顛末を説明し、〝天下の家老〟に返り咲いた。
家康は、秀頼は東軍や西軍の旗幟を鮮明にせず、立場としては中立であった――とすることで、ことを治めたのである。
「此度の戦は石田三成が謀り、三成に与した者たちが起こしたもの。秀頼様に非はあらず」
そう言って頭を垂れた家康に、生母の淀殿は幼い秀頼を促して、型通りの労いの言葉を掛けさせた。
「ほら、秀頼様。内府殿に〝大儀であった〟と」
「内府殿、大儀であった」
「ははっ。恐悦至極にございまする」
内心はともかく、表面上は平身低頭に、家康は臣下の礼を取った。
もとより、齢八つの秀頼に天下の大局など分かろうはずもなく、大大名の徳川家康とことを構えて、大事にはしたくない――。
淀殿はそう考え、この件を手打ちにした。豊臣家に大難なくばそれで良い、との結論に至ったのだ。
もっとも、各地にあった豊臣家の〝倉入地〟――直轄領は、西軍に与した八十七もの大名家の所領四百十四万石以上を没収し、家康に味方した諸将に再分配をした際に、倉入地がある地域の大名家の所領と共に没収されて、どさくさ紛れに減封。二百二十二万国から、六十五万石余に激減されたのである。
家康は味方した諸大名に加増したが、多くは遠方への転封を伴うもので、縁故のない土地への入封であった。
さらに、家康は譜代家臣にも加増。大名格の家臣が多く誕生し、これらの譜代大名には、東海道から江戸に至る要衝の土地を与えた。
家康自身は二百五十五万石から四百万石に大きく加増して領地を拡大し、事実上、減封された豊臣家を始めとした他の大名とは隔絶した国力を以って、確固たる権力を確立したのである。
さて、他の西軍に付いた主だった大名家はどうなったのか――。
西軍の副将格だった五大老の一人、宇喜多秀家は薩摩まで逃亡していたが、やがて慶長十一年(一六〇六年)に発覚。しかし、縁故の大名家に助命嘆願され、死一等を減じられて八丈島へと流罪となった。
関ケ原の合戦で、中央突破を計って切り抜けた島津義弘は、本国薩摩に戻った後、謹慎して家康に許しを乞うた。当主の
さらに義弘は意外な人物に仲介を依頼する。関ヶ原合戦で退却時に傷を負わせた井伊直政である。仲介を懇願する義弘の書状を読んだ直政は、使者に告げた。
「しかと承った――と、義弘殿にお伝え願いたい」
「では……」
「某に出来得る限りのことは致しましょう」
「かたじけのうございまする」
かつて、徳川家で外交を受け持っていた直政は、義弘の要請を受諾して家康に取り為したのである。
直政の説得を受けた家康は、ふと興味が湧いた。手にした扇で直政の太腿を指して、問うてみた。
「そなたの足を撃った義弘の願いを、何故に聞き入れるのじゃ? その足は未だ、完治しておらぬのじゃろう? 恨みはないのか?」
「この負傷は某の未熟故にございます。
「ふむ」
「某の私怨より、天下安寧のため、ここは穏便に済ませるべきと存じまする」
「それでよいのか?」
「はっ。島津よりも、某には大坂の情勢が気に掛かりまする」
「相分かった」
九州情勢も不安定である上に、島津勢と戦をするのも得策ではないと判断した家康は折れて、島津家を不問に付した。直政の言う通り、家康も遠い九州のことより、大坂城の秀頼、淀殿の方が気掛かりでもあったのだろう。
慶長七年(一六〇二年)のことである。関ケ原の戦いから、二年が経っていた。
講和の仲立ちをした井伊直政は慶長七年二月一日(一六〇二年三月二十四日)、講和成立を見ずに逝去した。享年四十二歳。
元々の原因であった会津の上杉景勝は、百二十万石から、家臣の
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