第2話「信者の村に潜む闇」
幕間① 星空の下で
闇ギルドから魔剣〈魔神ばんばんブレード〉と〈コモン・ルーン〉を取り返した日の夜。〈烏の濡れ羽亭〉に併設された宿屋の店先でピッピは星空を見上げていた。
自分の知識がまるで役に立たない異郷の地。魔界を抜けてずいぶんと遠くまで来てしまったことを実感すると、寂しさや不安がないまぜになった感情が心の内に湧き上がってきた。
「ああ、ここにいたのか。夜風にでも当たりたくなったのかい?」
宿の扉を開けてアロンが出てきた。
「アロンお兄さん……。ピッピは星を見てたっぴ。でもこの街の上に広がる星はピッピの知らない星ばかり。魔界を抜けて久しぶりに見る人間界の星を見れば、懐かしい気持ちになるかと思ったけど、逆に寂しくなっちゃったっぴ」
アロンはピッピの横に座りこみ、星空を指さす。ぽつりぽつりとアロンは星の名前や星座の結びを口にする。
星座に関わる神話や伝説の物語もピッピがこれまで知らなかったものばかりだ。
「アロンお兄さんは物知りっぴね。星の知識は誰から教わったぴか? やっぱり親御さんから習うっぴか?」
アロンは首を横に振り、星のことは妹から習ったと答えた。妹さんは今、何をしているかピッピが聞くと、アロンは少し沈黙し、冷たい風がふたりの間を通り過ぎた。
「妹は魔神に殺された。今は魂の輪廻の中でどこかに生まれ変わっているはずだよ」
悪いことを聞いたな、とピッピは思った。
「きみを見ていると、妹のことを思い出すんだ。妹は敬虔なハルーラ信者でね。……ああ、そういえばハルーラ様のことをピッピは知らないんだっけ」
アロンは首から下げた星形の聖印をピッピに見せた。
「導きの星神ハルーラ。この国では広く知られている
ふたりの間にまた少しの沈黙が流れ、痺れを切らしたアロンがまた星座を指さしてピッピに教え始める。自分が妹から教わった星々の逸話を妹の姿を重ね見たピッピに教えていると心がざわつくのをアロンは感じた。
「そろそろ中に戻ろうか、あまり長居すると風邪を引くかもしれない」
立ち上がり、ピッピに手を差し伸べる。
その手を取ってピッピも立ち上がり、2人は宿の中へ入っていった。
冷たい夜空には兄神と妹神を表す2つの星座が輝いていた。
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