1-6 魔剣に呼ばれた魔神

<前回までのあらすじ>

 身を持ち崩した冒険者のふりをして、未登録の闇冒険者ギルド〈無印の葡萄酒亭〉に接触した一行。盗まれた魔剣を取り戻すためには2千ガメルが必要と無理難題をふっかけられるが……。


ガンデイン:「よしっ、まずは魔術師ギルドへ行くか」


セリーナ:「ピッピちゃんを売りにですか?」


ピッピ:「え? ピッピ売りに出されるっぴか?」


ガンデイン:「ちげーよ! 残りの魔法の指輪〈コモン・ルーン〉を闇ギルドの盗人から取り返すためだって言やぁ、魔術師ギルドから融資してもらえるかもしれないだろ」


アロン:「そうだな、サイモンに相談してみよう」


***


 サイモンのいる魔術師ギルドへと足を運ぶ一行。

 事情を説明するとサイモンと彼の師匠であるウォレス導師がやってきた。


「話は聞かせてもらったよ。研究のために魔術師ギルドで引き取るはずだった魔法の指輪〈コモン・ルーン〉が賊に盗まれ、取り戻すために2千ガメル貸してほしい……ということじゃな?」


 ウォレス導師の言葉にピッピがぶんぶんと強くうなずく。


「ピッピは魔剣さえ取り戻せればいいから、闇ギルドから取り戻したコモン・ルーンは研究に使ってもらって構わないっぴ。だから魔剣を買い戻すのを手伝ってほしいっぴ」


 ウォレス導師は目をつぶって深く考え込み。しばらくして目を開けて言った。


「分かりました。我々が闇ギルドから魔剣と残りの〈コモン・ルーン〉を2千ガメルで買取りましょう。サイモン、彼らと一緒に闇ギルドとやらへ出向いてくれ」


***


GM:そう言うわけでサイモンが仲間に加わった。彼は魔導師ウィザードで様々な魔法を使うことができる。


ピッピ:「得意な魔法は?」


サイモン(GM):「聞いて驚け、僕の十八番オハコは【スリープ・クラウド】だ!」


ピッピ:(が自慢とは悲しい男っぴね)


【スリープ・クラウド】

 初代『ソード・ワールドRPG』では1レベルで覚えることができた強力な制圧魔法。複数の敵を眠らせて無力化できる。

『ソード・ワールド2.5』では格上げされ6レベルのウィザードがようやく習得できる高位の呪文となった。


GM:それじゃあ、サイモンを連れて君たちは再び闇ギルド〈無印の葡萄酒亭〉を訪れる。白い髭のギルドマスター"大笑いの"ジョンが君たちを出迎えるよ。


アロン:「遺跡から回収したと言う魔剣について魔術師ギルドの彼が買い取らせて貰いたいそうだ」


"大笑いの"ジョン(GM):「ほう、本当に2千ガメルで引き取ってくれる相手を探して来たか。なかなか使える奴らじゃねえか」


ガンデイン:「つーわけで、魔剣を持って来てもらえねぇか? 魔術師ギルドが買い取る前に剣の状態も見たいだろうし」


"大笑いの"ジョン(GM):「ちいと待ってな。今、持って来させる」


GM:そう言ってジョンが店の奥の扉を開けたその時だ。「おかしらぁ! 昨日、盗ってきたロングソードが……倒れた拍子になんか銀色の変な窓みてぇなもんを開けたんだ!」という声が聞こえてくる。


アロン:あっ


ガンデイン:あっ


セリーナ:あっ


ピッピ:ぴっ?


"大笑いの"ジョン(GM):「ああん? 窓ぉ? どれちょっくら様子を見てくるか……ぐわー!!!」


ガンデイン:「……あー」


アロン:「遅かったか……」


ピッピ:「マズいっピ! 〈魔神ばんばんブレード〉が暴走してるに違いないっぴ!」


セリーナ:「〈魔神ばんばんブレード〉!?」


ガンデイン:「あの魔剣、そんな名前なのォ?」


アロン:「にわかに取り返す気が萎えてくる名前だなあ!」


ピッピ:「ピッピがそうよんでるだけっぴ。本当の名前は知らないっぴよ」


ガンデイン:「どんな名前にせよ、危険物にゃあ変わりはねぇやな」


ピッピ:「とにもかくにも魔界につながってるゲートを閉じないと大変なことになるっぴ」


セリーナ:「とにかくヤババのヤバですね!」


ガンデイン:「しかし、店の奥はどんな事態になってんだよ。ここにも冒険者崩れが所属してはいるはずだろ?」


ピッピ:「確かにそうっピね」


セリーナ:「でも多分このギルド、普通の冒険とか行かせてないですからね。所属してる構成員も大した実力はないんじゃないでしょうか」


GM:そんな話をしていると奥から男がひとり顔を出す。「お前ら新入りか? ちょっと手を貸してくれ、仲間が魔神に襲われてんだ!」


セリーナ:「はい、わかりました! 今、行きますね!」


ガンデイン:「いや、これもうちょっと様子見たほうが……」


セリーナ:「恩を売るチャンスですよ!」


アロン:「ガンデイン、魔神を放置してはおけないよ」


ガンデイン:「兄貴が行くならしょうがねぇやな、突っ込むか!」


GM:「へへっ。なんか分からんが来てくれるならありがてえ」そう言って男はセリーナの腕を引っ張って奥へと進んでいく。


セリーナ:「こっちですね!」←いつの間にか手を引いた男より奥にずんずん進んでいる。

「どっちですか!?」←初めて来た場所なので何もわからなくなった。


ガンデイン:「馬鹿、後衛の魔法職が無防備に先行するんじゃねぇ!」


アロン:「一旦戻れ、セリーナ!」


GM:そんなやりとりをしていると案内していた男の姿がぼやけて真っ黒な人型の魔神へと変貌していく!


セリーナ:「はいっ、今もどります!……って、ええ!? ま、魔神!」


アロン:「こいつ変身能力を持つ魔神だったのか……! 人間を精巧に模倣するなんて!」


ガンデイン:これ、セリーナ大丈夫か?


GM:いいや、大丈夫じゃないね。魔神のいる前線エリアに出てきてもらおうかな。


ガンデイン:ウワーッ!


【前線エリア】

『ソード・ワールド2.5』の基本戦闘ルールでは3つのエリアにキャラクターを配置してゲームを行う。

 魔法使いや射手などの近接戦闘能力のないキャラクターが安全に位置どるための「後方エリア」と、戦士系の冒険者が敵との乱戦を行う「前線エリア」、敵にとっての安全圏である「敵軍後方エリア」に分かれる。

 本来であれば戦闘開始時にキャラクターを好きなエリアに配置するのだが……。

 先へ進んだセリーナが後方エリアにいるのは不自然だとGMが判断したため、今回は強制的にセリーナを前線に置くよう裁定をくだした。


GM:貧弱な神官が前線エリアに出てくるチャンスを魔神は逃さない!


アロン:貧弱とは言うけど、この中で一番HPが高いのはセリーナなんだよな。


GM:えっ、そうなの!?


アロン:俺のHPが29だろ。


ピッピ:同じく29だっぴ。


ガンデイン:オイラのHPは27。


セリーナ:HP、31あります!


GM:本当だ、華奢なエルフなのにセリーナが一番HP高いんだ。


セリーナ:お姉さんですから!


GM:じゃあセリーナお姉さんには魔物知識判定で、本性を表した魔神について知ってるか判定してもらおうか。目標値は13だよ。


セリーナ:(コロコロ……)出目が6で基準値が7だから……13。ぴったり13です!


GM:じゃあ判定成功だ。セリーナはこの人型の影のように黒い魔神の正体を知っている。魔神の名はダブラブルグ。


〔ダブラブルグ〕

 魔物レベルは6。

 観察した対象そっくりに変身できる能力を持ち、殺した人物に成り変わり人間のフリをして活動する狡猾な魔神。

 変身を解除すると影のように黒い肌に大きく裂けた赤い口を持つ姿になる。

 鋭い二本の爪は1ラウンドに二回の攻撃を可能とする。


GM:それじゃあ魔神ダブラブルグと君たちのどちらが先に行動できるか先制判定で決めるよ。


ピッピ:先制判定ってなんだっぴ?


GM:『ソード・ワールド2.5』では初代『ソード・ワールドRPG』の敵味方入り乱れて敏捷度順に行動する戦闘とは違って、斥候スカウト軍師ウォーリーダーの行う先制判定で行動順を決める。今回は特別にシーフ技能で振っていいよ。ソード・ワールド2.5ではキャラクターの敏捷度などに関係なく先制判定に勝った陣営の全員が先に行動し、その後で負けた陣営の行動順になる。


ピッピ:責任重大っぴねぇ。判定の目標値は?


GM:敵対する魔物の中で最も高い先制値が先制判定の目標値になる。ダブラブルグの先制値は13だね。サイコロ2つの出目にシーフ技能レベルと敏捷度ボーナスを合計して判定してみて。


ピッピ:(コロコロ……)えーっと、これにシーフ技能レベルと敏捷度ボーナスが合わさるから……18! バッチリ抜けたっぴ。


GM:それじゃあ、まずは冒険者たちの手番からだ。


セリーナ:恒例の『乱戦エリアからの離脱準備』です!


〔乱戦エリアからの離脱準備〕

 敵の近接攻撃が届く乱戦状態のエリアから脱出して安全圏に避難するための行動。

手番の行動放棄と回避判定にマイナス4の重いペナルティがかかる。

 よほどの状況でないと使われないマイナーなルール……のはずだが、GMである青猫あずきの前作『ALLグララン総進撃!』では、ほぼ毎戦闘のように使われた経緯があるためセリーナは『恒例の』と言ったのである。


アロン:それじゃあ次は俺の番だな。腰にさした剣を2本とも抜いて《二刀流》で魔神に斬りかかるよ。それぞれ命中力は(コロコロ……コロコロ……)15と13。


GM:回避振るよ。(コロコロ……コロコロ……)16と14だね。ダブラブルグは影のように捉えどころのない動きで2本の剣を躱した。


ガンデイン:「こいつは相当、狙いつけないとダメだな。命中力を+1する【キャッツアイ】と、同じく命中力を+1する【ターゲットサイト】を重ねがけして、急所狙いの弾丸【クリティカル・バレット】を撃つぜ! (コロコロ……)命中16なら、どうだ?」


GM:(コロコロ……)それは流石に避けられないな。ダメージちょうだい。


ガンデイン:(コロコロ……)よしっ、クリティカル!


〔クリティカル〕

 ダメージ算出のために振ったサイコロが武器のクリティカル値以上の出目だった場合、攻撃が急所に当たったものとして更に追加でダメージ算出のダイスを振り足す。運良く2回目もクリティカルした場合、さらにクリティカル値より低い出目が出るまで何度でも振り足し続けることができる。


ガンデイン:(コロコロ……コロコロ……コロコロ……)


GM:!? 待て待て待て! 何回クリティカル続けた!?


ガンデイン:4回転だな。46点の魔法ダメージ!


GM:ダブラブルグこのボスのHPは52なのに46点も!? 流石にダメージがデカすぎる……。


 この後、ピッピの攻撃を避けて手番をもらった魔神ダブラブルグはせめてセリーナを道連れにしようと爪による二回攻撃でHPが1桁になるまで追い詰めますが……。アロンの剣の前にボスである魔神ダブラブルグは倒れるのでした。


 うーん、もうちょっと強い魔神にしておけばよかったのかなあ……。

でもクリティカル4回転は事前に予想できないし仕方ないかあ。


ガンデイン:「よっしゃあ! やったぜ兄貴ィ!」


アロン:「ガンデインの方こそ、良い一撃だったよ。助かった」


GM:部屋の奥、ピッピ言うところの〈魔神ばんばんブレード〉の元へいくと、銀色の揺らめくゲートが閉じていくのが見えた。辺りには闇ギルドの冒険者と"大笑いの"ジョンが倒れています。


ガンデイン:まぁ……、悲しい話だがこいつらもロクな奴じゃあねぇしな。このまんま縛って遺跡ギルドに突き出してやろうぜ。


GM:どうあれ無事に魔剣と〈コモン・ルーン〉は回収できます。


ガンデイン:「……ま、闇ギルドのやつらは自業自得だな。他人の魔剣を勝手にかっぱらった罰ってワケだ」


ピッピ:「ピッピの魔剣! ピッピの〈コモン・ルーン〉! うわーん、もう手放さないからね」


ガンデイン:「しっかしこりゃ思ったよりも大変な魔剣だな……どーすんだよこれ。もう一本あんだろ?」


セリーナ:「ピッピちゃん。2本目は何のばんばんブレードなんですか?」


ピッピ:「2本目は魔剣〈デーモンスレイヤー〉だっぴ」


セリーナ:「ちょっとカッコつけましたね」


ピッピ:「うん、ちょっとカッコつけた」


ガンデイン:「しっかし、取られたのがそっちってなぁ不幸中の幸いか……。魔界に繋がるゲートを開く剣が魔神の手に渡ったとか、洒落にならねぇもんな」


ピッピ:「あー、ピッピ。魔剣を盗られた責任を感じる~。共に魔神と戦う仲間ほしい~。ピッピ、報酬の当て、2万ガメルある」


ガンデイン:「わざとらしい言い方しやがって……だとよ、兄貴」


アロン:「報酬がなくたって協力するさ。よろしく、ピッピ・パット・ヘム。異郷のきょうだい……いや、そんなに近くないかな?」


ガンデイン:「せいぜいハトコってとこじゃねーか?」


ピッピ:「ピッピ、ハトコの子!」


 かくして異世界フォーセリア初代ソード・ワールドから魔界を抜けてやってきたグラスランナーと、ラクシアソード・ワールド2.5の冒険者たちの物語は幕を開けた。

 果たしてピッピは魔剣を取り戻しフォーセリアに帰ることができるのか?

 この連載は新規読者と古参ファンの両方にリーチできるのか?

 ぜひ貴方の目で確かめて欲しい。

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