1-4 盗まれた魔剣と2千ガメル

<前回までのあらすじ>

 魔術師ギルドに〈コモン・ルーン〉を1つ貸し出したピッピは2千ガメルと言う大金を手に入れ気が大きくなっていた。恩を返すために3人に高めの食事を奢ることを約束したピッピであったが……。


GM:では良い飯屋で呑んで食った翌日。冒険者ギルド〈烏の濡れ羽亭〉に併設された宿で目を覚ましたピッピは、自分の荷物から魔剣と【エンチャント・ウェポン】【カウンター・マジック】の〈コモン・ルーン〉2つがなくなっているのに気づく。


ピッピ:「ないっぴ」


ガンデイン:「あァ? どうしたオメー」


ピッピ:「ないないない! ピッピの〈コモン・ルーン〉と魔剣が根こそぎ誰かに持ってかれてるっぴ!」


セリーナ:「ええっ!?」


ピッピ:「セリーナお姉さん! 盗賊ギルド、この街の盗賊ギルドに案内するっピ!〈コモン・ルーン〉はともかく魔剣は! 魔剣はまずいっぴ!」


セリーナ:「と、盗賊ギルド? ……遺跡ギルドのことでしょうか?」


〔遺跡ギルド〕

 初代『ソード・ワールドRPG』に存在した盗賊ギルドは『ソード・ワールド2.5』には存在しない。代わりに台頭しているのがこの遺跡ギルドである。建前上、遺跡から発掘してきた物品を取り扱う古物商のような役割を謳っているが、実質的には盗品などを扱う闇の組織である。


ピッピ:「まずいっぴ! あの魔剣が不用意に扱われたら魔神がばんばん召喚されてしまうっぴ!」


GM:ピッピが持っていた魔剣には魔界とラクシアを繋ぐゲートを開く力が込められている。盗んだ者が不用意に扱えばゲートが開き、魔神がこちらの世界を侵略しに現れるだろう。


ガンデイン:「魔神がばんばんって、ろくでもねぇ魔剣だなァ!?」


アロン:「魔神には守りの剣が効かない。街中で暴れられたらパニックになるぞ!」


〈守りの剣〉

 発達した都市部には魔物を遠ざける結界を張らことができる〈守りの剣〉という剣が設置されている。

 〈守りの剣〉には魂が穢れた魔物やアンデッドの動きを鈍らせる効果があり街の平穏を守っている。しかし異界の理で動く魔神には〈守りの剣〉は無力であり、魔神の活動を妨げることはできない。


セリーナ:「大変です、その魔剣を早く探しましょう! ……ところで遺跡ギルドってどこにあるんですか?」神官が知ってるわけないんですよね。


ガンデイン:「流石にオイラたちゃ斥候スカウトじゃねえし、知らねぇぞ」


GM:冒険者ギルドで聞くなら情報料として100ガメルぐらい払えば教えてもらえるよ。


アロン:「〈烏の濡れ羽亭〉で聞いてみよう。暇にしてる斥候スカウトの1人くらいは居るはずだ」


セリーナ:「そういえば、ピッピちゃん。お金は無事なんですか?」


ガンデイン:「オイラたちマジで金ねぇから一番金持ってるのピッピなんだよな。金が無事ならだけどよ」


ピッピ:GM、金貨袋は残ってる?


GM:残念ながら見当たらないよ。


ピッピ:「ガメル金貨の袋も無いっぴ!」


セリーナ:「一大事ですっ!」


アロン:とにかくまずは〈烏の濡れ羽亭〉へ行こう!


GM:宿泊施設の隣にある冒険者ギルド〈烏の濡れ羽亭〉へ君たちは移動した。しかるべき聞き方をすると情報料100ガメルと引き換えに遺跡ギルドの場所を教えてもらえるよ。


アロン:まあ、金は俺が出すよ。100ガメル、だよな?


ガンデイン:この瞬間、貧乏なオイラたちの所持金総額は500ガメルを切った。


セリーナ:でも、それどころじゃないですからね。


***


〈烏の濡れ羽亭〉のギルド職員へ情報料として100ガメルを支払った一行はさっそく遺跡ギルドへと向かう。


GM:それじゃあきみたちが教えてもらった遺跡ギルドの場所を尋ねると、ギルド構成員の男が出迎えてくれる。


セリーナ:「あっ! 私、この人に見覚えあります!」



 突然のセリーナの発言にGMは混乱する。特に因縁のあるNPCのつもりはなかったのだけど……。



セリーナ:「この人、弟の病気を見てくれた祈祷師さんにそっくりです!」


ガンデイン:遺跡ギルドの構成員にそっくりって、やっぱりセの字のやつ、詐欺に引っかかってるんじゃねーの?


GM:(OK。OK。……そういうことなら)それじゃあ、遺跡ギルドの男はセリーナを騙して金を巻き上げようとした詐欺師だったことにしよう。



 こう言った「シナリオで決まっていない設定」をアドリブで変更していくのはTRPGではよくあることです。


GM:詐欺師だから名前は適当にサギーってことで。


アロン:なんて安直な。


セリーナ:「あの。すみません、祈祷師の親戚の方とかっていらっしゃいます?」


盗賊ギルドの男サギー(GM):「あー。いますいます。兄が稼業をついでいましてね」


セリーナ:「まあ、お兄さん! 不思議な縁もあるものですね。じゃない、違います、こんな話をしてる場合じゃなかったです」


ガンデイン:(だ、騙され続けとる。まっ、まぁ今はそれどころじゃねぇか……)


サギー(GM):「それで本日はどのような要件で?」


アロン:「仲間の持ち物がここに流れてきてないかと思ってきたんです」


ガンデイン:「盗みにあっちまってよ。取り返してぇんだわ」とはいえ今の俺たちの所持金は400ガメルを切っているんだ。金で買い戻せないのが痛いぜ。


サギー(GM):「失礼ですが、どちらの宿にお泊りで?」


アロン:「冒険者ギルド支部の〈烏の濡れ羽亭〉です」


サギー(GM):「〈烏の濡れ羽亭〉? ううん、それは困りましたね」


ガンデイン:「何か問題でもあるのか?」


サギー(GM):「貴方がたの泊まっていた宿は我々に『自警費』をきっちり払っていましてねえ。そうなると、そこでウチの者が仕事をしたとなれば不義理を働いたことになるわけです」


ガンデイン:「まぁ確かに普通、冒険者ギルドで遺跡ギルド員が盗みはやらねぇわな」


サギー(GM):「すみませんが、いったん若い者が勝手に仕事してないか聞きこむので少し待っていただけますか」


アロン:「わかりました。お手数おかけします」


GM:しばし、出された飲み物などを手にして待つことになるね。


ガンデイン:「んー、こうなると盗賊ギルドに入ってない流しの泥棒か、その辺のチンピラか、あるいは突発的な盗みか……後でサイモンのにぃちゃんの方に預けた〈コモン・ルーン〉も無事か確認取った方がいいかもしれねぇな」


 待つことしばし……


サギー(GM):「お待たせしてすみません。ウチの若い者に聞いて回りましたが……昨晩、あなた方の宿で盗みをした構成員はいませんでした」


アロン:「そうなると、犯人はモグリの盗賊というわけですか」


サギー(GM):「こちらとしても〈烏の濡れ羽亭〉さんからは自警費を頂いている以上、知らぬ存ぜぬはできません。今夜、〈烏の濡れ羽亭〉に伺いますのでそれまで待っていていただけますか? 下手人をそれまでに突き止めておきます」


セリーナ:「わかりました、盗まれたものなんですが、危険な魔剣らしいのでくれぐれもお気をつけて」


GM:さて、では夜までにしておくことはあるかな?


ガンデイン:さっきもチラッと言ったけどサイモンの様子を見てきたいぜ。貸してた【ライト】の〈コモン・ルーン〉は無事かね?


GM:分かった。それじゃあ君たちはサイモンのいる魔導師ギルドを訪ねることにした。


***


 魔術師ギルドの研究室へ足を運ぶとサイモンは少し困ったような顔をした。


「どうした?流石に昨日の今日で2万ガメルは用立てられてないよ」


「実は昨日泊まった宿で残りの〈コモン・ルーン〉が盗難にあってね。君に預けてた方は無事か確認したくて……」


「なに?盗っ人?僕のところの指輪は盗まれていないな」


 サイモンは机の上にある〈コモン・ルーン〉を指さす。


「それじゃあ〈コモン・ルーン〉を狙った犯行でなく、盗んだものの中に偶然、〈コモン・ルーン〉があっただけかもしれませんね」


「ちなみにサイモンさんよぉ、〈コモン・ルーン〉の話、誰か他の奴に話したか?」

 ガンデインが聞くとサイモンは首を縦に振った。


「学部の上の者には話したよ。買い取るのに必要な研究費の増額を請求するためにね」


「そういう人間がわざわざ盗みをするとは考えにくいな」


「金出せば買える立ち場だしなぁ。そうなると、やっぱ流しの盗賊かァ?」


「流浪のグラスランナーの盗賊がいて、持っていっちゃったのかもしれませんね」


「セリーナお姉さん、そういう偏見はグラスランナー差別っぴよ」


***


GM:では他に行くところが無ければ改めて夜。遺跡ギルドのサギーさんが〈烏の濡れ羽亭〉を訪れることになる。


アロン:特にその前に行くべきところはないかな。サギーさんが訪れたところから始めよう。


ギルド構成員サギー(GM):「お待たせして、すみませんね」


アロン:「いえ。それでどうなりましたか?」


サギー(GM):「どうやら盗みを働いたのは冒険者ギルド、のようです」


セリーナ:「冒険者ギルドが!?」


サギー(GM):「いやまあ、冒険者ギルドを勝手に名乗っているやからという意味ですが」


セリーナ:「どういうことでしょう?」


サギー(GM):「〈無印の葡萄酒亭〉。そう言う看板を掲げた酒場が、冒険者ギルド本部に届け出ないまま、表の仕事ではやっていけなくなった脛に傷のある冒険者を抱え込み、違法に仕事を回しているとの話で」


ガンデイン:「モグリの冒険者ギルドぉ? そんなもんあんのかよ!」


セリーナ:半グレみたいな感じですね。


アロン:「ギルド本部に未登録ということは、所属している冒険者に回す依頼の裏取りや報酬の配分も怪しいということでしょう?」


サギー(GM):「ええ、ですから平気で悪事に手を染めさせる。まったくもって許せない手口ですよ」


セリーナ:「噂に聞く闇ギルド、というやつですね」


ガンデイン:犯罪で食ってる遺跡ギルドの構成員が言うのもまぁ大概図々しいが……。


GM:この街の遺跡ギルドは正義の遺跡ギルドでさぁ。……必要悪って言うのかなぁ。遺跡と悪いヤツからしか盗まないんだと。


ガンデイン:いやまぁ……まぁ……。遺跡ギルドそのものの善悪はさておこう。


アロン:『ソード・ワールド2.5』の世界観的には、彼らもおかしいこと言ってるわけではないからね。現実世界とラクシアでは犯罪や治安への捉え方がかなり違うから。


ガンデイン:「……とすっと、その闇ギルドから奪い返さにゃならねぇわけか。しかし、モノが魔剣と魔法の指輪だ。結構な大口の取引になるからな。昨日の今日で捌きますってわけにゃいかねぇだろ。まだブツは闇ギルドが抱えてると思うぜ」


アロン:「そうかといって正面から殴りこむわけにもいかないしな……。仮にもギルドとして組織だっているところに無策で飛び込むわけにもいかないだろう」


セリーナ:「魔剣の力でなく、お金目当てならお金で解決できま……せんよね、私たちの手持ちでは……」


サギー(GM):「さて、そこでなんですが〈烏の濡れ羽亭〉を通して正式に依頼させてください。闇ギルドの場所をお教えしますので、ギルドマスターを捕まえてきていただけませんか? 闇ギルドなどという不逞なやからには我々、遺跡ギルドの顔に泥を塗った責任を負ってもらわねばなりません」


ガンデイン:「ここまで無料ロハでやってくれたんなら文句は言えねぇや。実働は冒険者のオイラたちに任せときな」


サギー(GM):「冒険者同士は争ってはならないという不文律があるそうですが、相手は正規の冒険者ではないそうなので。……まあ私に言えるのはここまでですね。ご武運を」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る