1-3 【ライト】の〈コモン・ルーン〉

<前回までのあらすじ>

 魔神から救ったお礼に魔法の指輪〈コモン・ルーン〉をくれると言うグラスランナーの少女ピッピ。

 魔法の指輪の価値を鑑定してもらうため、一行はアロンの友人である魔術師ギルド所属の学生サイモンを訪ねることにした。


GM:と言うわけで君たちは魔術師ギルドへ赴き、サイモンのいる研究室をおとずれた。


***


 クロウズネストの魔術師ギルドは魔法の研究をする導師たちが集まり、学生たちに魔法の技術を伝える修練の場だ。魔法を身につけた学生は冒険者になるか、さらなる研究のため魔術師ギルドに残る。

 アロンの友人であるサイモンは後者で、基礎的な魔法理論を習得した後も魔法の品々を研究するために魔術師ギルドに籍を置き続けている。


「サイモン。今は暇……ではないだろうけど、少し時間を貰ってもいいかな」


魔術師ギルドの研究室はごちゃごちゃと乱雑に魔法の品が積み上げられていた。


「アロンか。まあ気分転換がてら手を止める程度の余裕はあるよ」


 机に積まれた魔導書の山の向こうからサイモンの声が聞こえる。


「それはよかった。この指輪の鑑定を頼みたいんだ」


 そう言ってアロンはピッピの持っている指輪を指し示した。


「なんだ、それ。魔法の指輪なのか?」


「〈レインボーリング〉のようなものらしいのですが……ピッピちゃん、その指輪使ってみてください」


 セリーナに言われてピッピは一歩前に出る。


「『光れ!』」


 指輪は白く輝き、研究室はひときわ明るくなった。


「こ、コマンドワードが古めかしいグラスランナー語の指輪だと!?」


 サイモンが大きな声を上げて驚く。


「なんだコレ、こんな面白いアイテムはそう見たことないな。動力に〈マナ・カートリッジ〉の類は使っていないようだし、グラスランナーに魔法は扱えないはず……一体どういうカラクリで動いてるんだ!?」


 サイモンは椅子から立ち上がり、魔法の指輪を見るためにピッピのそばに寄ってきた。


***


ガンデイン:「なんか効果の割に珍しいもんらしいな。……まあ聞いたことねーもんな、オーファンとかいう場所。よっぽど珍しい土地だったんだな」


サイモン(GM):「ちょっと付けたり消したりして見せてくれるかい?」


ピッピ:「いいっぴよ。『光れ!』 消えろ! 『光れ!』 消えろ!」

精神力が3減少した! 精神力が3減少した!


セリーナ:なんかの数値がめちゃくちゃ減ってます!


ピッピ:「ぜぇはぁ…ぜぇはぁ…」


アロン:「なんだか不安になる使い方だな」


ガンデイン:「大丈夫か、オメー」ピの字の背中をさすってやるぜ。


サイモン(GM):「驚いた。体内にMPマナを持たないはずのグラスランナーの中から何らかの力をくみだしてるのか。面白い、もう2,3回頼めるか」


アロン:「だ、大丈夫なのか……?」


GM:ピッピの精神力は0になった。ピッピは目の前が真っ暗になった。


ピッピ:ばたんきゅ~


セリーナ:わわ。倒れるピッピちゃんを支えます。


ガンデイン:「うおっ倒れた!? 見ず知らずのグラスランナーを実験台にすんなや!」


アロン:慌ててピッピにかけよるよ。妹を失っているので幼い姿の人族が倒れる姿を見ると、ちょっとトラウマが刺激される……。「良かった、どうやら息はあるみたいだ」


サイモン(GM):「クククッ。実に興味深い。……グラスランナーのために造られた遺物なのか? 何にせよ研究しがいがあるな」


ガンデイン:「ったくよぉ……この指輪オイラも使えんのか?」この手のアイテムは言語わかんなくても発音さえ分かればコマンドワードとして機能するんだよな、確か? 指輪借りて俺も同じ発音で『光れ!』と唱えてみよう。


アロン:「気をつけろよガンデイン、君まで気絶したら……」


GM:ガンデインの精神力が3点減少した!


ガンデイン:「おわっ!?」


GM:銃弾にマナを込める時とは違うぞわぞわっとした感覚がある。


ガンデイン:「なんだこれ、指輪に何かエネルギーを吸われたのか? ……そんじゃあこいつ、マナ切らしてぶっ倒れたのか? おい、セの字。ちょっとこいつにマナくれてやったら起きるんじゃねえか?」


セリーナ:「『くれてやったら』ってそんな簡単に……」


アロン:「【トランスファー・マナポイント】の魔法があるだろう? 君のレベルなら使えたはずだけど」


サイモン(GM):「面白い。試してみてくれ」


ガンデイン:「流石に【トランスファー・マナポイント】かけられて死ぬ奴ァいねぇだろ。グラスランナーに【トランスファー・マナポイント】使ったとこ見たことねぇけど……世界初じゃねぇか?」


 ガンデインが言うように(少なくとも公式のソード・ワールド・シリーズでは)グラスランナーに【トランスファー・マナポイント】を使うのは初めてのこと。グラスランナーはMPのステータスを持たないから基本的に神官がグラスランナーにMPを渡すというシチュエーションは起こりようがないのだ。



セリーナ:「私だってグラスランナーには初めてかけますけど。……えいっ、トランスファー!」


GM:それじゃあトランスファーをかけられたピッピは意識を取り戻した。


ピッピ:ぴきーん、目覚めたああ!


ガンデイン:「お、目ェ覚ました。よくわかんねーが、この場に神官がいてよかったなオメー」


ピッピ:い、今、トランスファーしたっぴか? え、エルフなのにの魔法を……? 「つかぬことをお聞きするようですがエルフのお姉さん。どの六大神を信仰してるっぴ? エルフのプリーストなんてオーファン中を探してもいないっぴよ」


セリーナ:「六……、なんですって? 我が神は導きの星神ハルーラ様ですが」


ピッピ:「え? 誰それ。知らない神様だっぴ」


セリーナ:「ほら、この聖印に見覚えはありませんか?」星型の聖印を振ってみせる。


ピッピ:「し、知らない神様だっぴ。ピッピは、ピッピは、もしやとてつもなく遠くへ来てしまったのでは!?」


セリーナ:「ハルーラ様を知らないとなると、少なくとも違う大陸から来たんでしょうね……」


ガンデイン:大神メジャー・ゴッドは別大陸だと知られてねぇことあるからな。


【大神】

『ソード・ワールド2.5』の神格は古代神、大神、小神に分類される。古代神であればこの世界ラクシアの誰もが知っているが、大神クラスだと住む大陸によっては知られていないことがある(小神は更に狭い地域でしか知られていない)。


ピッピ:「別の大陸…。これじゃあ、故郷に魔剣を持って帰れないっぴ」


セリーナ:「ピッピちゃん、気を落とさないで。……もしかしたら、港の近くなら知っている方もいるかもしれませんし」


ガンデイン:「つーか、そうだオメー。魔剣のうち1本取られちまったじゃねーか。どーすんだよあっちの剣は」


ピッピ:「ぴぇ?」


アロン:「2本1対の魔剣なんだろう? 取り返さないといけないんじゃないか?」


ピッピ:「そうっぴ。このままだと、まずいっピ! あの魔剣が魔神グルネルの手に落ちたままだとお家に帰るどころじゃないっピ」


ガンデイン:「手持ちの金もねぇんだろ? ……ああまぁ、この〈コモン・ルーン〉ってのを売りゃ路銀ぐらいにゃあなるか。実際どうでいサイモンさんよ、こいつはどんぐらいの金になるんだ?」


サイモン(GM):「……2」


ガンデイン:「やっぱ2千ガメルぐらいか。まぁそんぐらいなら……」


サイモン(GM):「2万ガメルで買い取らせて欲しい。いや、即金で用意できる額じゃないな。とりあえず一週間ほど2千ガメルで貸してくれ!」


ガンデイン:「2万ガメル!?」


アロン:「10倍だって???」


サイモン(GM):「考えてもみろ! この指輪を研究してメカニズムを解き明かせばグラスランナーを魔晶石に代わる新たな動力源としてエネルギー革命が起こせるぞ!」


ピッピ:ぴぇ? ピッピ、魔晶石の代わりに使われるの!?


ガンデイン:「おい! とんでもないこと言い出したぞ、こいつ」


セリーナ:人権のある種族をエネルギータンクとして使うなんて、問題発言です!


アロン:「サイモン、友人としてそんなことはさせないぞ!?」


サイモン(GM):「止めてくれるなアロン、この研究がうまくいけばクラスダナール島は蛮族領イルサン島からの脅威に怯える必要もなくなるかもしれないんだぞ!」


ガンデイン:「言いたいこたぁわかるが、言い方ってもんがあらぁな!?」まあでもグラスランナーが魔法を使えるかもしれねぇってのは、たしかに革命だわな。こいつの言い方はともかくよ。


サイモン(GM):「そのグラスランナーの同意は取り付ける必要があるかもしれないが、無いものを虚空から生み出す魔法の指輪の存在は大いに研究しがいのあるテーマなんだということは分かってほしい」


アロン:「……君がそういう、誤解を招く言い方をしがちな人間なことを思い出したよ」


サイモン(GM):「僕も少しばかり乱暴な物言いになってしまったことは謝るよ、すまなかった」


ガンデイン:「ま、この指輪はどうせ売るつもりでここに来たわけだしな。ピの字がいいならとりあえずいいんじゃねぇか、レンタルだのなんだのについては。いいよな、ピッピ?」


ピッピ:「わかったっピ。少しの間、その【ライト】の〈コモン・ルーン〉は預けるっぴ」


サイモン(GM):「では、とりあえず僕の研究費から…」そう言って2千ガメル分の金貨袋を部屋の奥から持ってくる


ガンデイン:「改めて売るってなったらそん時に1割ぐれぇを報酬としてもらうことにしようぜ、兄貴。そんぐらいの勘定だったわけだしよ」


アロン:「そうだね。残りはピッピのお金だ」


***


「なんだか凄い額を受け取ってしまったっぴ。ふふ、ふふふ」

 

 金貨袋に目を輝かせるピッピ。

 彼女はアロンたち3人に深く頭を下げると声を張って言った。


「それじゃあ、御三方! 改めてお礼をさせて欲しいっピ。なんかこう高めなご飯どころでパーッと良いものを奢るっぴ!」


「お、いいのかァ? オイラぁ結構飲み食いするぜ!ダハハ!」


 ガンデインが豪快に笑う。


「売りに出したらこの10倍入るんだから全然痛くないっぴ!」


 自信にあふれた声でそう言うピッピを見てセリーナは微笑む。


「違う大陸から来たと言えどグラスランナーはしょせんグラスランナーですね……」


「ああ、どこに行ってもグラスランナーはああいう種族なんだな……」

 アロンもそれに同意する。


「ささ。お兄さんたち、パーッと!パーッとやるっぴ!」


 どたどたと外に出てからピッピが慌てて引き返してくる。


「道がわがらないっぴ~~!看板の言葉もなんて書いてあるか全然読めないっぴ」


「こりゃしばらくは通訳にセの字をくっつけとかねぇとな……」


 勢いだけで行動するピッピを微笑ましく思いアロンの口元が緩んだ。


「ははは……店は俺たちで選ぶよ」


 セリーナが通訳し、ピッピは首をぶんぶんと縦に振った。


「しかし交易共通語が使えないとは……前途多難ですね。……いいですか、ピッピちゃん。あの文字が『トイレ』です」


「ははーん。酒を吐くところっぴね」


 セリーナが首を横に振るがピッピは「オーファンではそうだったっぴ」と強く主張した。ピッピがほらを吹いているのか、本当に彼女の故郷オーファンではそうだったのか分からないのが悩ましい。


 かくして別大陸から来た異邦人のグラスランナーを仲間にした一行。

 魔神に奪われた魔剣を取り返すための彼らの物語はこうして始まったのだった。

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