第1話「2千ガメルを取り返せ!」
1-1 空からの来訪者
GM:本日は『ソード・ワールド2.5』のリプレイ収録のためにお集まりいただきありがとうございます。
私はプレイヤーとなる4人に通話越しに挨拶をした。
TRPGは「T=テーブルトーク」が示すように、机を囲んでオフラインで遊ぶものとして生まれた遊びだ。しかし昨今はオンライン・セッションツールがいくつも生まれ、ネット越しにTRPGを遊ぶプレイスタイルもメジャーなものになっている。
このリプレイもそうしたオンライン・セッションツールを借りて遠隔地に住むプレイヤーとGMとで収録を行っている。
GM:それでは今回の舞台を説明します。クラスダナール島にある小国レイヴンフォール王国、その首都であるクロウズネストが物語の主な舞台となります。プレイヤーキャラクターのうち3人はクロウズネストにある冒険者ギルド支部、〈烏の濡れ羽亭〉を拠点とする冒険者となります。既に3人はパーティとしていくつかの依頼をこなして来た気心の知れた仲間ということにしてください。
プレイヤーA:プレイヤーは4人いるみたいだけど冒険者ギルドに入っているのは3人だけなんだ。残りひとりは?
プレイヤーB:私はGMからの指示を受けて事前に皆んなとは違うルールでキャラクターを作ったの。このあと初めて出会うことになるよ。
GM:では物語を始めていきましょう。事の起こりはレイヴンフォール王国の首都クロウズネストの中央噴水広場から始まります。
***
アロン・カリスは16歳の冒険者だ。
彼が10歳の時に故郷の村が魔神に襲われ、彼は母と幼い妹を失った。少年の心にそれ以来、消えない炎が灯っている。魔神を1体でも多く殺そうとする復讐の炎が。
この剣の世界ラクシアでは人間は15歳で成人として認められる。
つまり16歳のアロンは立派に独り立ちできる大人だ。
彼は15の時に冒険者ギルド支部〈烏の濡れ羽亭〉の扉を叩き、それから1年遺跡の探索や商隊の護衛などの依頼を受けて生活してきた。
腰に差した2本の剣、〈スティール・ブレイド〉と〈ディフェンダー〉が彼はもう駆け出しの新人ではないことを示している。
彼の冒険の仲間は2人。ひとりは弟分の年若いドワーフ、ガンデイン。
冒険中、土砂崩れに巻き込まれ危うく死にかけていたところをたまたま通りかかったアロンが救ったのがふたりの出会いだった。
以来、ガンデインはアロンを兄貴と呼んで慕っている。
もうひとりの仲間であるエルフの
アロンとガンデインの2人はあてもなくクロウズネストの街をぶらぶらと歩いていた。
前回の冒険で得た報酬はとっくに底を尽き、次の仕事を探さなければならない。
「兄貴、あれなんだ?」
いつの間にか辿り着いていた街の中心にある噴水広場の空をガンデインが指さす。
目を向けると、噴水の上に見慣れぬ銀色の円盤が浮いている。厚みがなく水面のようにゆらゆらと揺れている。魔導士ギルドが何かやらかして魔法の事故でも起こしたのだろうか?
***
GM:さて。アロン、ガンデイン。2人はどうする?
アロン:「危険なものかもしれない。ガンデイン、いつでも飛び出せるようにしておこう」
ガンデイン:「合点、了解!」
ほう。逃げ出せるように、ではなく飛び出せるように、か。
アロンは勇敢で強い正義感があるようだ。
GM:ではあなたたちの見ている銀色の円盤から謎の少女がひとり落下してくる。その背には体格に見合わない2本の剣をしょっているよ。
TRPGは、こんな感じで進行役のGM《ゲームマスター》が行う状況の説明や描写に対してプレイヤーが行動を決めていくことでストーリーが進んでいく。
自分だけで好きに小説を書くのと違って、プレイヤーの選択次第では物語が思わぬ方向へと転がっていくこともあるのが面白いところだ。
ガンデイン:「兄貴、空から人が!」
アロン:「危ない!」と叫び、少女を受け止めるために噴水の方へ駆け出します。
GM:ではアロン君がちゃんとキャッチできたのか「判定」で決めよう。
〔判定〕
多くのTRPGではキャラクターの行動が成功するか失敗するのかを決めるためにサイコロやトランプのカードなどを用います。
この作品『ソード・ワールド2.5』では1~6の目が出る普通の6面サイコロを2つ使います。
振った2つのサイコロの出目を合計し、そこにキャラクターの技能レベルや能力値ボーナスと言ったゲームデータを足したものを達成値と呼び、その数字が十分に大きければ判定に成功したことになります。
GM:今回は銀色の円盤の下にアロンがとっさに駆け込めるかを判定で決めるから「冒険者レベル」と「敏捷度ボーナス」の合計をサイコロの出目に足した達成値が目標値以上なら成功とします。目標値はちょっと甘めに見積もって10にしようかな。
アロン:(コロコロ……)出目は4と1で合計5、冒険者レベルも5で敏捷度ボーナスが2だから合わせて12。目標値の10を超えたよ。
***
宙に浮かぶ銀色の円盤から落下してくる小さな体をアロンは受け止めた。混乱しているのだろうか? 少女はアロンの知らない言語で声を上げている。
種族の壁を越えて人族が会話するための言語、交易共通語でアロンは落ち着くよう声をかけるが、少女には何故か交易共通語が通じないようだ。
「兄貴ィ、大丈夫そうかぁ?」
足の遅いドワーフであるガンデインが少し遅れて駆けてくる。
***
ガンデイン:GM、この女の子の種族はなにか分かるか?
GM:見たところ
ガンデイン:「その小さな背丈にとがった耳。見たとこ、グラスランナーか……。オイラたちグラスランナー語はわかんねえからなあ」
GM:ではそんなあなた達の上空、銀色の円盤……ゲートから影が差します。
ガンデイン:「っ、兄貴!またなんか来るぜ」
アロン:「今度は何だ……!?」
GM:ゲートから長い尾を持つ青銅色の肌をした人型の魔物が現れます。魔神です。
***
突然、街中に現れた魔神に辺りは騒然となる。ガンデインが市民たちに逃げるよう声を張り上げる。
魔神は少女と同じ言葉で話し始め、首を振ると「いや、こちらではこう話すんだったな」と流暢な交易共通語に切り替えてアロンの方を見た。
「我はその小賢しい娘の背負っている魔剣を取り返しに来ただけだ。それを寄越せば貴様らに危害を加えるつもりはない」
「悪いが魔神に渡すものなんてひとつもないよ」
そう言ってアロンは腰の2本の剣に手をかける。
「そうか、邪魔するというなら力づくで奪い返すだけだ」
***
GM:では戦闘シーンだ!
アロン:ところでこのパーティ、
プレイヤーD:まだ
〔スカウトとセージ〕
ダンジョンに仕掛けられた罠に気づき解除する斥候や、幅広く様々な知識を身に着けていることを表す学者の技能です。
『ソード・ワールド2.5』では魔物との戦闘の最初に「敵と味方どちらの陣営が先に行動できるか」を決める先制判定をスカウトが、「敵の魔物がどんな特殊能力を持ち、弱点は何か」を知るための魔物知識判定をセージが行います。
どちらも戦闘の行方を左右する重要な技能ですが、今回のパーティではまだ登場していないプレイヤーBさんとプレイヤーDさんの2人が、それぞれスカウトとセージを担当しています。
そのため2人を欠いたこの戦闘では先制判定も魔物知識判定にステータス補正を加算しないサイコロ2つの出目だけで挑まなければいけません。
GM:正体不明の魔神の先制力は15だ。
アロン:サイコロ2個の合計で15以上を出せれば先制が取れる……って無理に決まってるだろ!
GM:それじゃあ魔神が先手を取ったので、アロンたちより先に行動するよ。《魔力撃》の特殊能力を宣言して、与えるダメージを10点上昇、アロンくんに攻撃だ。命中力判定は(コロコロ……)17だね。
アロン:回避力は6だからサイコロで11を出さないと回避できないな。(コロコロ……)駄目だ、回避失敗。
GM;それじゃあ打撃点のサイコロを振って(コロコロ……)29点の物理ダメージ。
アロン:鎧と
GM;続いて魔物は下半身の尻尾を伸ばし、落ちてきたグラスランナーの少女が持っていた2本の剣のうち1本を絡めとって奪おうとする。少女の腕力判定を振って(コロコロ……)。うん、駄目だね。少女はグラスランナー語で叫びながら必死に抵抗するが剣を奪われてしまった。これで魔神の行動は終了。続いて君たちの手番だ。
アロン;「すまない、ガンデイン。回復を頼む」
ガンデイン:「が、合点!」つっても回復が専門職の
【ヒーリング・バレット】
魔動機銃から撃ちだす弾丸は
GM:次はアロンくんの手番だね。
アロン:〈ヒーリング・ポーション〉を買っておくべきだったな。自己回復できる行動がない。……仕方ないから魔神に斬りかかろう。(コロコロ……)命中14で攻撃。
GM:(コロコロ……)おっと
〔自動成功〕
判定のために振った2つのサイコロの出目がどちらも6の場合、その判定は数字の大小を無視して必ず判定に成功します。
これを自動成功と呼び、逆に出目がどちらも1の場合は判定に必ず失敗します。こちらは自動失敗、俗にファンブルと呼ばれます。
アロン:《二刀流》の戦闘特技があるから、もう一回攻撃できる。(コロコロ……)命中16。
GM:(コロコロ……)回避17。きみの剣は魔神に手傷を負わせることすら叶わない。
ガンデイン:「兄貴、こいつ強ぇぞ!」
GM:それじゃあ2ラウンド目、魔神の手番。この魔神は物理攻撃だけじゃなく魔法にも精通している。【
アロン:(コロコロ……)3,1の4。出目が低いな、ここは[運命変転]を使おう。
[運命変転]
人間が持つ種族特徴。効果はゲーム内時間で1日に1回だけ、振ったサイコロの出目を裏返すことができるというもの。例えば出目が3と1の4ならば、変転すると4と6の合計10として扱われるわけです。
アロン:出目が10になって精神抵抗力が7だから合わせて17。魔法の達成値15を上回ったよ。
GM:それじゃあダメージは半減して……7点。ガンデインの【ヒーリング・バレット】がなければHP0で気絶していたね。続く伸縮自在の尻尾での攻撃は(コロコロ……)出目は2と1の3か。低いなあ、命中13でアロンくんを攻撃。
アロン:それだけ低いなら回避の目がある。(コロコロ……)こっちも13。同値回避だ。
〔同値回避〕
判定で敵と味方が数字を比べあう場合、数字が同じ場合は受動的な行動をしている側の勝利になります。攻撃の命中と回避では回避のほうが受動的な行動であるため、命中と回避の達成値が同じ場合は避ける側が成功したことになります。
さて、この戦闘は一種の「負けイベント」なのでアロンくんのHPが0になって気絶するくらいに思っていたんだけど。
予想に反して彼は制限時間いっぱい耐えきってみせた。流石は主人公枠のキャラクターと言ったところか。
***
「ちっ、人間ごときが……しかし、これ以上はゲートがもたない。ここが潮時か」
そう言うと魔神は尻尾を宙に浮く銀の円盤へと伸ばし、自分の体を引き上げた。少女から剣を1本奪ったままゲートの先へと消えていく。
魔神が通過すると、銀色の円盤は陽炎のように揺らぎ、消えていく。
「はあっ、はあっ……危なかった。君、怪我はない?」
アロンはそう少女に声をかけるが、言葉はやはり通じない。
「兄貴、とりあえず神殿に行って、傷を治してもらわねえと。傷口から血を流しすぎてらあ」
ガンデインがアロンの体を気遣う。後少しゲートが崩れるのが遅ければ魔神の次の攻撃でアロンは死んでいたかもしれない。
「そうだね。一旦、ハルーラ神殿に行こう。君もついてきてくれるかい? 俺の仲間なら、グラスランナー語も分かると思うから」
身振りも交えてなんとか伝えてみる。少女は首を縦に振った。
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