人型兵器パイロットの俺、入隊後3日で失職。
レモンの幹
入隊0日目:配属
「次、ファング。」
「はい!」
数日前にパイロット養成学校を卒業した俺は、配属先部隊の発表会場に来ていた。
現代の戦争で中心となっている人型兵器『メサイア』。核兵器をばかすか飛ばしまくって環境を際限なく汚染していたこれまでの戦争を終わらせ、人々の生活とこの惑星の環境悪化を食い止めたまさしく
人型以外もいないことはないが脳と直接機体を繋ぐニューロンリンクをした際、違和感なく動かしやすいということで二腕二脚の人型が主流となっている。
さっき呼ばれたファングというのは俺の軍での名前。この識別名の由来は俺が八重歯だったから。由来はどうであれ、かっこ良くて気に入っている。
「君は、イエロージュエルに所属することになる。これからの君の健闘を祈る。」
教官にそう告げられた俺は放心状態になった。
イエロージュエル……4年前に起きたウィール共和国とスカッド帝国間で起きた共帝戦争で撃墜数最多、当時は部隊が出来てから初の実戦だったらしいが、それからは現代のウィール共和国最強ともいわれる部隊だ。
戦時中は訓練生なりたてで出撃時と帰還時しか見ることができなかったが、遠目から見てイエロージュエルの機体達は無傷。
そしていくつもの基地を破壊し、帝国の本拠地にまで壊滅的な大打撃を与えたという戦果。
この二つは、全訓練生の憧れとなるに十分な理由だった。
もし入れたら……という気持ちで希望こそ出したが、本当に部隊に入隊できるということを理解するまでに、無限にも思える時間が過ぎていく。
「次、カリバー。」
教官が次の奴を呼ぶ声で一気に現実へと引き上げられる。
そのままふらふらと半ば千鳥足で自分の待機席まで戻れば、今更になって鼓動が激しくなってくる。
「ファング、おめでとう。」
「お、おう。お前は?」
先ほど部隊を告げられたカリバーが話しかけてくる。
名前の由来は木の枝を振って「うおおお!エクスカリバー!」ってやってたから。
「私はブラックエッジだったよ。希望通りだ。」
一人称もしゃべり方も小説に影響されたという面白い奴だ。入学当初からの付き合いで、こいつがしゃべり方と容姿が王子系だったこともありそばにいる俺にこいつ宛のラブレターが届くこともあった。そいつらは後に軍の施設で何やってるんだと教官からお叱りを喰らっててウケた。
カリバーが所属することになるブラックエッジは共和国陸軍の精鋭歩兵部隊が前身となった部隊だ。共和国で最も威厳ある隊と言われている。強く、一糸の乱れもない統率されている様はThe軍隊といった雰囲気を醸し出している。救援で来てくれた時の安心感は一番だと言う人も多い。所属を示すものは黒い刃のナイフ、特殊部隊時代の名残。ちなみにイエロージュエルはその名の通りの黄色い宝石が与えられる。
「いや、やってけっかなぁ~」
「操縦の腕は私たちの中で2番目だし心配はいらないさ。」
「シュミレータの戦績は同じぐらいだろ。」
「いや、僕の方が3勝多い。僕が1番だ。」
「うっせ。」
こいつは頭もいいし操縦もうまい。
ただ教科書通り過ぎて動きが硬いから、そこを突いてギリ勝ち繰り返している。こいつ以外には苦戦こそしても機体が崩壊寸前まで行くことはない。現役のパイロットに小破で勝てるぐらいには俺もできるはずなんだけどな。
卒業時の成績はカリバーが学力実技共に1位、俺は30位ぐらいだ。
俺はパイロットは必修の物理がよくできなかったからな。搭乗時に計算して動くなんて無理なんだから感覚で覚えた方が絶対早いはずなのに。
「機体の希望はどうする?」
シュミレータではパーツをランダムにして遊んだりしていたのでぶっちゃけどんな機体でも戦えるのだが、現実じゃもとからある機体を大幅に改造は出来ない。ベースとなる機体をミスったら長い間それで戦わなきゃいけない。
迷うな……軽量機?重量機にブースター無理くりつけてかっ飛ばすのもありだな。
「僕は中量機で組んでもらうつもりだけど。」
「お前いっつもそれだよな。中量機で左手にレーザーブレード、右手はアサルトライフル。肩にキャノンだろ?」
「今回は右肩にミサイルも載せてもらうさ。」
「飽きないのかそんなんで。」
「欠点がないから気に入っているんだ。」
「へぇ~。欠点は受け入れるもんなんだがなぁ。」
「というかこの話何回目だい?」
「お前が新しい機体組んだ時毎回だから……」
「そこ!静粛に!無駄話をするならば帰れ!」
振り返れば険しい顔をした40代前半だと思われる教官が居た。
知らない教官だな。
「良いんですか?あざ~す。」
「お言葉に甘えて。」
のちに聞いた話だが、この後の会場は水を打ったように静かだったらしい。
まったく、誰が原因なのやら。
☆☆☆
「いやー!さっさと帰れたし憧れの部隊に就けるし万々歳だな!」
ここまで気分がいいのはカリバーをハンドアクスの偏差投擲で撃破したとき振りだ。いや、素手で頭掴んでコックピット部分にヒートナイフぶっ刺した日だっけな?
「よっしゃ、今日は寮までスキップするわ!」
「転んでも知らないよ?」
この年でスキップして転ぶとかダサすぎるだろ、ないないっ!?
「っぶねぇ!」
「言わんこっちゃない……」
石畳になんかしてんじゃねぇよ!軍の施設におしゃれさはいらねぇだろ!車両も通りづらそうだし物資が揺れてんだよ!中身がぐちゃぐちゃになる事もあるし良いことねぇって!
「ここ石畳にするって言った奴と賛成した奴全員ブレードぶち込む。」
「多分上層部なんだけど。墓前の花は何がいいかな?」
「殺っちゃいねぇし死んでもいねぇよ縁起でもねぇ。」
さ、そろそろだ。
「寮とうちゃーく。この後どうすっかな。」
「一回帰ってシュミレータに籠ろう。今の時間なら空いてるし、ファングの機体も考えなきゃ。」
「よし、そうしよう。」
それぞれの部屋に戻りシュミレータ室に向かう最中、今は現役軍人の養成学校の先輩、トーキー先輩に会った。由来は入学式の時緊張しすぎて隣の人にずっと話しかけていたかららしい。その時に話しかけられても無視し続けたことが由来のフィギュア先輩に教えてもらった。
「なんでこんな時間に?」
「帰っていいって言われたんで配属先発表抜けてきたんですよ。俺とカリバーは終わってたんで。先輩は休みですか?」
「ああ、休みなんだけど昨日まで長期任務だったから乗ってないと落ち着かなくなってな。んで?お前らはどこ配属になったんだ?」
「俺がイエロージュエルで、カリバーがブラックエッジっす。どっちも第一希望ですね。」
「マジか!お前らすげぇな!」
「カリバーはともかく俺は半ば賭けだったんでマジで嬉しいです。」
こんな話を少しの間する。久々に会えた数少ない気軽に話せる先輩だし。
「ここになんか用事があるのか?」
「そうです。俺が機体構成迷ってるんで選定の手伝いをカリバーがしてくれるって言うんでここで待ってるんすよ。」
足音。噂をすれば何とやらだ。
「待たせてすまない。ああ、トーキー先輩。ご無事で何よりです。」
「カリバー、その本は?」
「パーツのカタログと戦場で撮られたネメシスのフォトブックだよ。探すのに手間取ってね。」
カリバーはそういって両手に抱える量の本をシュミレータ室の中の机に置いた。
「んじゃ、俺は昼めし食ってくるわ。頑張れよ二人とも。」
「はい。ありがとうございます。」
「食いすぎないでくださいよ~。」
トーキー先輩はそういって食堂の方に向かっていった。
「さてと、まずは軽量機から乗ってみるかな。」
「武装のカタログはこれで写真の方は目次を見てくれ。」
「はいよー。」
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