第77話
「コンビニのどこが底辺だっていうんだ……?」
「え? だって、そうじゃ~ん」
男は間抜けにも浩介の怒りに全く気が付かない様子で、さらに愚かな言葉を言い連ねた。
「レジの中に突っ立って『いらっしゃいませ~、ありがとうございま~す』って言いながら、客が持ってきた物をレジ袋に突っ込む。たったそれだけで金払ってもらえるのに、自分がもらえる給料は最低賃金。そんなの別に高校生からでなくても、小学生の手伝いでもできそうな仕事じゃん?」
「それ言えてる~。そんな誰でもできそうな仕事って超楽そうだし、天野がやってるのも分かるよね~」
「何言ってんだよ。誰でもじゃなくて、天野みたいなおちこぼれとか、この前の暴力振るってきた奴とか、いつまでもフリーターやってるこのオッサンとかがやるような仕事なの、コンビニのバイトなんて」
「それな~」
他の二人も便乗して、先ほどよりももっと大きな声で侮辱してくる。閉じられている自動ドア越しでもはっきり聞こえてくるあまりにも品のないその言葉の数々に、レジの中の三人は怒りで体が小刻みに震えた。
「し、信じられない。何てひどい事を言う子達なの……? このお店のおかげで、私はものすごく助かったのに。とても信じられな……て、永岡さん!?」
乙女や『ハッピーマート所橋一丁目店』に絶大な恩義を感じている小百合は口元を押さえてそうつぶやく中、正臣は怒りを全く隠そうしない表情を浮かばせながら、「もう我慢できねえ……」と二人の横をすり抜けようとしていた。
「極道は舐められたら終わりだ。それは女手一つでこの
「そ、それはダ、ダメだってば永岡さん……!」
「行かせて下さい、店長さん! 俺なんぞどうなっても……」
まだ短い期間ではあるが、この『ハッピーマート所橋一丁目店』で一緒に働くようになってから、正臣の中で乙女達への意識が変わっていた。ほんの少し前まであの男女三人組と全く同じ考えだったにもかかわらず、派手なスーツではなくコンビニのユニフォームを身に纏った今の正臣の耳には、彼らに対する侮蔑にしか聞こえなかったのだから。
だが、正臣がレジから飛び出すよりもずっと早く、自動ドアの向こうにいる浩介の方ガ行動が早かった。ゲラゲラと笑い転げている三人組に対して、「上等じゃねえか……」と言った後で、
「じゃあ特別だ。将来有望な若者だっていうお前らに俺達の仕事を社会見学させてやるよ……!」
と、彼らに鋭い眼光を浴びせかけた。
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