プロローグ

第1話

「……初めて会った時から、ずっとあなたが好きでした! よ、よかったら、僕とお付き合いして下さい!!」


 高校生にしては何て初々しく、かわいらしい告白なんだろう。緊張でぎゅうっと両目を閉じ、耳たぶまで真っ赤な顔をしているクラスメイトの男子を前にして、彼女は心の底からそう微笑ましく思った。


 今時はLINEやSNSのメッセージで告白する事が多いと聞いていたのに、まさか昇降口の下駄箱に『お話したい事があるので、放課後、校舎裏まで来ていただけませんか?』という手紙が入っていた上、こんなふうに対面で直接言われるだなんて……。


 もし、自分が全く違った立場であったのならば、久々に胸がきゅうんと高鳴ってときめき、思いっきり照れてしまいながらも即座にOKの返事をしていた事だろう。それくらい、目の前にいる男子はかわいらしい。誰が何と言おうとも、この子は世界で一番愛おしい存在である。


 だが、しかし! どんなに口惜しくても、自分には為せねばならない事がある。その為には……!


 そう思って、彼女は緩んでしまいそうな口元を一度強く引き結んでから、目の前の男子を強くにらみつけた。


「……全く。こんな所に呼び出して、いったい何の話を聞かされるのかと思ったら」


 自分にできる限りのとてつもなく低い声と刺々とげとげしい口調を意識しようと、彼女は厳つく腕組みをしながら言葉を言い放つ。心の中ではそのとげのチクチクとした痛みにひどい罪悪感を覚えていたが、これも全てはこの子の為だと割り切り、さらに続けた。


「誰に向かって、何を口走っているつもりなの!? 自分の身の程ってもの、まるで分かってないのね」

「え……」

「初めて会った時から、何ですって? 冗談じゃないわよ、そんな目で私を見てたって訳!? 超気持ち悪いんだけど!?」

「あ、あの……」

「誰があんたみたいな、教室の中でもいるかいないか分かんないような根暗モブ男子を気にかけるっていうの? 同じ教室の空気を吸ってるからだとか、ほんのコンマ一秒目が合ったからだとか、その程度の事で『実は私も……』なんておめでたい展開が発生するとでも思った!? どんだけ頭の中にお花畑を咲かせてんのよ、バッカじゃないの!?」


 次から次へと湧いてくるように発せられる罵倒の数々に、男子の顔がどんどんと暗くなっていくのが分かる。それに比例して、彼女の心もさらに締め付けられていったが、それでもやめる訳にはいかなかった。決して、その告白を受け入れてはいけないと思っていたから。


 ごめんね、本当にごめんね。彼女は心の中で、何度も謝り続ける。

 

 何故ならば、彼女の見た目は男子と同い年の女子高生であるものの、その体の内に宿っている魂は、十六年前にこの世を去った彼の母親のものであったから――。

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