第63話

大丈夫ですと言ってはみたものの、正直なところ、菊池はその約束を後悔し始めていた。


『…人数は少ねえけど、活動内容はわりと楽しめるんだ。お前も絶対気に入るって!』


 そう言った長谷部の言葉など、信じるべきではなかった。


 どう見たって、楽しく活動していますとは言いがたい見た目の物置もどき。その、いまだ開く事ができないドアの横に掲げられた表札には、これまた嫌な予感しか浮かばないサークル名が書かれている。


 菊池は、ぼそりとした声でそれを読み上げた。


「オ、『オカルト&不可思議現象研究サークル エデンズ・アイ』…っすか」

「おう。なかなかイカした名前だろ。俺が考えたんだ」

「そ、そうっすね」


 そう答えつつ、菊池は高校時代の長谷部の様子をゆっくり思い出してみた。


 …うん、間違いない。


 高校で一緒だった頃の長谷部は、こんなものには一切興味を持っていなかった。


 気のいい先輩であると共に、軽薄な事を簡単に口に出す年頃の男そのものであり、クラスメイトの女子の胸の大きさに順位をつけたから聞かせてやるよと言われて困った事があった。


 だから、少人数とはいえ、長谷部が誘ってくるほどだから、もっと明るくて開放的な体育会系サークルだと思っていたのに、よりによって、ほの暗さが極まるオカルト系とは…。


 マジかぁ。勉強を見てもらった手前、今更「やっぱり入部やめます」は通じないだろうし。


 どう立ち回れば、長谷部の気分を悪い方向に向かわせずにこの場から逃げられるかと、菊池が考え始めた時だった。


「…よう、長谷部。そいつが話していた新入生か?」


 二人の背後から突然聞こえてきた声は、およそこの場には全く不釣り合いなほど明るく朗らかなものだった。


 えっ、と短い声を出しながら菊池が振り返ってみると、そこにはやたら背が高く、肩幅もがっちりとした構えを見せる一人の男が立っていた。


 絶対180センチ以上はあるだろうその大男は、さもおかしそうに笑いながらこちらをじいっと見下ろしている。高校時代、平均データをほんのわずか上回る程度の成長具合でしかなかった菊池は、そんな彼の視線を固まって受け止めるしか術がなく…。


 少しして、その状態にもう耐えられなくなったのか、長谷部はククク~…と声を押し殺すようにして笑いながら、菊地の肩をポンポンと軽く叩いてこう言った。

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