第63話
中学の卒業式の日。あたし達は必要以上に朝早く起きて、ホームルームが始まるギリギリの時間まで、部室にいた。
あれから生物部に新入部員が入ってくるなんて訳がなく、三年間、あたしとマキナだけで過ごしてきた部室とも今日でさよなら。
かといって、寂しいとか悲しいとかなんて気持ちはなかった。あたしとマキナは、同じ高校に入学する事が決まっていたから。
「高校でも、生物部の活動を続けようね!」
そう言ってから、空になってしまったあたしの紙コップに新しいジュースを注いでいくマキナ。あたしには、その言葉がちょっと心に引っかかっていた。
あたしは勉強が得意って訳じゃなかったから、それなりのレベルの高校しか選べなかったけど、成績まであたしとは全く真逆だったマキナは、やろうと思えばもっと偏差値の高い高校に進む事だってできたはずなのに。
「…本当に、良かったの?」
あたしの返事に、マキナが不思議そうに首をかしげる。
何よ。あんた、そのせいで親とさんざんケンカしたって言ってたくせに。何で、そんなキョトンとしてられんの?
「あたしに付き合って、一緒の高校にしなくてもよかったじゃんって話。別に放課後に会えるし、ケータイでメールなりLINEなりすれば」
「それも一瞬考えた。でも、やめたの」
「何で?別に問題なくない?」
「それ。その『別に』って口癖。私以外で、誰が優子に注意するの?」
「別に、困ってないし」
「ほら、また」
マキナがクスクス笑う。
三年間、どんなに注意されても、あたしの口から「別に」がなくなる事もなくて。それを注意するのも生物部の活動だなんて、マキナはいつも言ってくれてた。
「ありがとう、優子」
マキナが言った。
「あなたは名前の通り、本当に優しい子。だから、高校でも一緒にいたいと思ったの」
照れ臭くてそっぽを向いちゃったけど、マキナのそんな気持ちが素直に嬉しかった。
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