第6話

「裕也ぁ!」


 誰かが叫ぶ声が、男の子の耳に届いた。


 裕也…、僕の名前だ。


 そう思った男の子が目を開けたのと、誰かがその小さな身体を力いっぱい抱き締めたのは、ほぼ同時だった。


 だが男の子が、その腕のたくましさと胸の温かさを感じる事はできなかった。


 抱き締められたと思った次の瞬間、彼らの身体は車のボンネットにぶつかり、数メートルほど弾き飛ばされてしまったのだから。


 二つの身体が地面に強く叩き付けられ、転がる。


 集団から悲鳴がいくつか飛び出てきたが、誰も彼らを助けようとしない。


 スピーカーからウグイス嬢の声が再び聞こえてきた。


『会場にお越しの皆様にお詫び申し上げます。Case.1の執行にあたり、警備に不備があった模様です。その為、“元被告”の侵入を許す結果となりました事を、ここに深くお詫び申し上げます…』


 ウグイス嬢の声は、車に轢かれ、弾き飛ばされた男の子の耳にもしっかり聞こえていた。


 男の子には、はっきりと意識があった。身体をもじもじと動かしてみる。打ち付けた痛みはあるが、大きな怪我はしていなかった。

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